ー奇談ー學校へ行こう8

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

白巳「しゅぴぃしゅぴぃ…」

神姫「……なにこれ?」

悠「なに、とは?」

神姫「なんで私の机の上で寝てるのよ」

悠「なんかそこが良かったっぽい」

神姫「……とりあえず、こっちかしら」

ゴスッ!
悠「痛い!!」

【スプンタ・マンユ】

千世子「はーい、じゅぎょーしますなのだ。スプンタ・マンユは、キリスト教より2000年ほど古くから存在していたとされる宗教「ゾロアスター教」に登場する大天使なのだ。」

悠「酷い殴られた。そして普通にスルーしてじゅぎょー始められた!」

摩耶「チャイムみたいなもんでしょ」

悠「骨の鳴る音がじゅぎょーの合図って……」

神姫「……亘理、これ抱っこしてなさい」

ひょい
亘理『アイアイサー』

白巳「くぅくぅ」

千世子「ゾロアスター教の最高神は、全知全能の神アフラ・マズダであるのだ。創造の天使スプンタ・マンユはアフラ・マズダの分身であり、神の命令によってこの世界を作り出した存在なのだ。また、彼はゾロアスター教の7人の最高位天使「聖なる不死者(アムシャ・スプンタ)」のリーダーであり、もっとも高位の天使だという事ができるのだ。」

悠「……赤子を抱く幽霊って絵があったよな」

亘理『え、そんなに母性あふれてる?』

摩耶「オドロオドロシイ絵だよ?」

亘理『……』

ガブッ!
悠「そして妖怪頭齧り……」

千世子「ところがスプンタ・マンユはゾロアスター教の中でもっとも特殊な立ち位置にいる天使でもあるのだ。ゾロアスター教の教義は前半期と後半期でかなりの違いがあり、後半期の教義にはスプンタ・マンユは存在していないのだ。」

摩耶「抱っこしながら噛むって言う高等技術だね」

神姫「っていうか、無理に抱っこしたままでなくても適当にどこかにおいたらいいのに」

亘理『適当に……』

そっ
白巳「しゅぴぴ」
神姫「……へぇ、やるじゃない」

悠「おれでも神姫の頭に乗せるとかいう所業は出来ないのに、それをやってのける亘理!そこに痺れるあこがれる!」

神姫「……」

ゴスッ!

千世子「ゾロアスター教の後半期の教義では本来スプンタ・マンユが務めるはずの「聖なる不死者」の最高位は、神であるアフラ・マズダ本人だという事になっているのだ。スプンタ・マンユはあくまで神の性格のひとつだと考えられるようになり、独立した個性では無くなってしまったのだ。もちろん、世界を創造するという重大な役割も、アフラ・マズダ自身が行ったことになっているのだ。」

悠「……また殴られた」
たらッ

亘理『あ、鼻血出てる』

摩耶「それでも落ちない白巳ちゃんの安定力」

神姫「ヨダレとかたらされなきゃいいんだけど…」

白巳「はむはむっ」

千世子「スプンタ・マンユが消えた理由はふたつ。片方は、スプンタ・マンユはアフラ・マズダの創造の役割を切り取ったような天使だったので、独立して存在する事が薄いこと。もうひとつは、前半期ゾロアスター教の教義には矛盾があり、それを理解するためにはアフラ・マズダが「聖なる不死者」の最高位になる必要があったからなのだ。」

神姫「ちょっと待て、ナニされてる?」

亘理『えっと……編み髪をハムってます』

神姫「ヨダレどころの騒ぎじゃなかった…」

悠「悪意はないから!悪意はないから叩かないで!」

神姫「白巳は、ね」

ゴスッ!

千世子「また論理的な方向から「もともとスプンタ・マンユなど存在しなかった」と主張する意見もあるのだ。ゾロアスター教では、すべての動植物には「フラワシ」と呼ばれる守護霊がいると考えられており、天使たちも独自のフラワシを持っている。しかし、スプンタ・マンユは唯一「フラワシ」を持たない天使なのだ。」

悠「……」
ダラダラ

摩耶「唇の端と両の鼻の穴から血が漏れてるよ?」

悠「漏れてるって言うか漏らさせられたっていう……」

亘理『平手も痛いだろうけど純粋に殴られるってすっごく痛そう』

悠「いてぇよ!」

千世子「つまり「フラワシを持たない=独立した存在」ということになり、スプンタ・マンユが独立した天使であるという考え方は否定されてしまうのだ。以上、スプンタ・マンユのじゅぎょーだったのだ。」
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