ー奇談ー學校へ行こう8

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「室内で花火はマズイからやはり壁をブチぬくのはどうだろう」

冥「許可できると思ってるのナ」

悠「ですよねー」

摩耶「……」

悠「だとしたらどうするか……」

摩耶「……屋上でやったらいいだけだよね?」

神姫「面白いからしばらく見てましょう」

【イーサー】

千世子「じゅぎょーしますなのだ。キリスト教の救世主、イエスキリストはイスラム教の世界でも大きな存在感を放っているのだ。イエスはイスラム教徒にイーサーという名前で呼ばれ、神に作られた天使だと考えられているのだ。」

悠「窓の外にゴンドラ的な何かを設置したらそれは校舎の一部として認められないかな」

亘理『それだ!』

冥「無理ナ」

悠「橋なら!」

亘理『それだ!』

冥「無理ナ。」

千世子「イエスは、イスラム教の唯一神「アッラー」が、処女マルヤムに聖霊を吹き込んで妊娠させた結果生まれた子供なのだ。つまりイーサーは人間の枠を超えた、天使にひとしい存在なのだ。ちなみにイーサーの母であるマルヤムはキリスト教の「聖母マリア」と同一人物で、彼女もイスラム教徒にとても深く尊敬されているのだ。」

冥「だいたいどこにどう橋をかけるつもりナ?」

悠「……」

雨「考えなしここに極まる」

悠「へへっ」

雨「褒めてないから照れんな!」

千世子「イーサーは天使であると同時に、アッラーの言葉をイスラエルの人々に伝えた偉大な予言者でもあるのだ。イーサーの業績の中でもっとも重要なのは、イスラム教の創始者である予言者「ムハンマド」の登場を予告したことなのだ。また彼は神の教えが書かれている経典をアッラーから預かり、人々に広める役割も果たしたのだ。」

亘理『冥ちゃん…』

冥「そんな顔されても困るのナ。っていうか、おくじむぐっ!」

神姫「しー」

悠「ならこうしよう、地下から外に出る!」

亘理『できたらとっくにやってるから』

悠「ですよね」

千世子「イスラム教徒のあいだでは、イーサーは粗末な羊毛の服を着た修行者として、想像されるのだ。この姿はイスラム教が生まれた7世紀ごろの、キリスト教の修道士をもとにイメージしたものだと思われるのだ。」

悠「やっぱり壁をぶちぬくか、鉄板ひいて教室でやるかだな」

摩耶「ゴッツイ二択だね」

雨「別に窓の外に身を乗り出してやればいいんじゃない?落ちることはないんだから」

亘理『壁に引火しないかな』

悠「ちょっと面白いな」

冥「面白くないナ!」

千世子「処女から生まれ、病人を癒し、死者を生き返らせ、救世主と呼ばれる。イーサーの誕生や活躍内容は、『旧約聖書』に書かれているイエスの業績とほぼ同じなのだ。なぜならイスラム教にとっては、イスラム独自の聖典「コーラン」だけでなく、ユダヤ教やキリスト教の「旧約聖書」も信仰の対象だからなのだ。」

摩耶「場所にこだわらないなら大浴場でもいいよね。水は近いし、引火もしない」

悠「吹き抜けだしほぼ外だしな。そこでいいか」

亘理『えー……お風呂で花火って』

神姫「臭いはこもりそうね。」

冥「だから、おくじょむぐぅ」

摩耶「もう少し、もう少し」

千世子「ただし、イエスとイーサーには決定的な違いがふたつあるのだ。まずは、イーサーは十字架で死んでいないこと。十字架で死んだのはよく似た別人であり、イーサー本人は神によって天国へ行ったと、イスラム教徒は信じているのだ。もうひとつはイーサーが神の子ではないこと。イスラム教徒にとって神はアッラーひとりであり、神が子供を作ることも、イーサーが神と並ぶ存在であることもありえないのだ。」

悠「まぁ、ぶっちゃけ屋上ですればいいんだけどな」

冥「気がついてたのナ?!」

悠「あたり前田のクラッカー」

亘理『なるほど屋上があった!』

神姫「こっちは気がついてなかったみたいね。」

摩耶「ときどき亘理ちゃんも天然出るよね」

千世子「ふたつの違いは聖典「コーラン」にも名言されているのだ。イスラム教徒に改宗するキリスト教徒は、イーサーが神の子でないことを宣言する必要があるというのだ。以上、イーサーのじゅぎょーだったのだ。」
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