ｰ教室ｰ

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

千世子「はーい、じゅぎょーしますよーなのだ。」

悠「聞こえてる聞こえてる」

千世子「聞こえてるならちゃんと席について準備するのだ!」

悠「ふむ、確かにその通りだぞ……雨」

雨「アンタだよ!!」

【レミエル】

千世子「レミエルは「神の慈悲」という意味の名前を持つ天使で、「御前の七天使」の候補でもある偉大な天使なのだ。レミエルの特徴は、ラミエル、エレミエルのように多くの別名を持ち、しかも名前が違うと能力や役職までかわることなのだ。一部には、そもそもラミエルこそが四大天使「ウリエル」の別名だという意見すらあるのだ。」

摩耶「そういえば、がりゅーちゃんとデートどうだった?」

亘理『で･ぇ･と?』
ギギギ

摩耶「わぁ、亘理ちゃん。動きが錆びたブリキのおもちゃみたいでコワ～イ」

悠｢デートっか、骨董フリマのつきそいな｣

神姫「確かにそれはデートと言って欲しくないわね」

亘理『どういうことさっ!!』

悠「なにが?!」

千世子「レミエルに与えられた最大の役割は、死者の霊魂を監督する事なのだ。キリスト教の教えによれば、死んだ人間の魂は眠りにつき、世界の終わりと同時に行われる死者の審判「最後の審判」を待つことになっているのだ。レミエルは最後の審判が始まるまでのあいだ「神の慈悲」という名前にふさわしい優しさで死者の魂を見守り、審判が始まると、裁判の場へと導くのだ。」

悠「いや、どっか行くかって話してたから、それに付き合ってもらったんだけど」

神姫「最悪だわ」

雨「興味ないけど、その選択は確かにおかしい」

亘理『う、うらやましぃ……』

摩耶「片や大非難、片や大悔しがり……さすがだね!」

悠「めっちゃ居心地悪い」

千世子「しかし「優しいお守り役」だけがレミエルの役目ではないのだ。じつはレミエルは雷をつかさどる天使で、この力を使って神の敵と闘うこともあるのだ。ユダヤ教の伝承では、レミエルがイスラエルの敵国「アッシリア」の軍勢を滅ぼし、さらにはアリッシアを支配しようとしていた堕天使「ニスロク」を倒す活躍が語られているのだ。」

亘理『うーうー!』

悠「なにうーうー言ってんだよ。ほら、じゃあお土産やるから機嫌なおせ」

亘理『え、なになに!』

神姫「単純」

摩耶「そこが可愛いんじゃないかな、多分」

雨「せめて自信持っていったげなさいよ…」

千世子「レミエルの外見について統一した見解はないのだ。旧約聖書の外典で、ゼファニヤという予言者が天界に行く物語「ゼファニヤの黙示録」では、レミエルは「エレミエル」という別名で呼ばれているのだ。ここではその姿は、太陽のように輝く顔と溶けた青銅のような足を持ち、金色の腰帯を着けた天使と書かれているのだ。」

悠「ほら、これだ」

コトッ…【木彫り明王像】

亘理『……なにこれ』

悠「木彫りの明王像。なかなかのディテールだろ?」

亘理『……いらないわぁ』

神姫「なら、私が貰っていい?」

雨「まさかの食い付き?!」

千世子「レミエルの別名のひとつ「ラミエル」は、レミエルが本来持っている役割のほかに「幻視」をつかさどる天使だと考えられているのだ。」

悠「亘理がいいならいいが」

亘理『ドウゾ…』

神姫「うん、いいわね。ここに飾るわ」

雨「そして机に飾るって…」

摩耶「迫力あるねぇ」

悠「おれもミクさんとか飾ろうかな」

亘理『私を飾れ!』

悠「意味がわかりません…」

千世子「幻視とは視覚的な幻覚という言葉なのだ。しかしキリスト教でいう幻視には、ただの幻覚ではなく「神のメッセージ」という意味があるのだ。つまりラミエルは、人間に幻視を見せることで神の意思を伝えるという役割を持っているのだ。以上、レミエルのじゅぎょーだったのだ。」