ー奇談ー學校へ行こう7

ー校舎前:出入り口付近ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

「ふっ、ふっ……ふっー。」

おれは呼吸を整えながら振り落ちてくる巨拳を避ける。大きく距離をあけず、されど踏み込み過ぎない。腕を掴んで背負い投げるに一番いい立ち位置で、その時を待つ。

この考えは……傍から見ても大正解な戦術だった。パワー勝負での殴り合いは当然不利、かといって長期戦を望むのも悪手。さすれば組み伏せるのが最善策。

「うお゛ぉ゛ぉ゛!!」

来た。咆哮と同時に大きく振り上がった腕が降りてくる。おれは膨れていく拳のした、手首の部分に肘をぶつけて振り降ろしを強制停止(キャンセル)させる。そして、腕を掴んだ。

見事というほどの一連の動き。

ただ、唯一の誤算は相手が「人間」ではないことだった。

ソレに気がついたときには既に技の動作に入っていておれは完全に油断していた。だけども、目に入ってしまう。デモンの口が裂けんばかりに開いて、その奥から飛び出してきた物が首に巻きつく。

「ぐっ?!」

ギュッと圧迫され一瞬息が止まり掴んでいた腕を離してしまった。

「あ゛ーーーっ……!」

「ま、じかよ……!!」

おれの足首に巻きついてるもの……舌だ。この化け物、筋肉を操作変化するだけじゃなくて部位変化まで出来たのか…。少し考えればその可能性だって見いだせてたはずなのに……功を焦り過ぎた。遅い後悔をしていると足首に巻きついた舌がさらに締まり、おれは空中に振り上げられ地面にたたきつけられた。衝撃、激痛、圧迫、力任せの一撃に受け身もろくにとれず地面とキスさせられた。土の味と鉄の味。



『な、何今の…蛙?!』

驚きの声をあげる亘理にたいして冷静にツッコミをいれたのは千世子だった。

「亘理ちゃん。舌を伸ばすのは蛙じゃなくてカメレオンなのだ。」

千世子は続けて解説する。カメレオンの舌が伸びる理由は、舌の中には、根元から1本の骨がのびている。その骨のまわりには筋肉がついていて、この筋肉は、いつもはバネがちぢむように太くなり、ぎゅっとちぢんだ状態になっている。

カメレオンが獲物をつかまえるときには、その舌の根元にある骨が、前におしだされ、ちぢんでいた筋肉がのびて細長くなる。そして、舌の先から出る粘液で獲物をくっつけてとらえる。そのあとすぐ、舌を引っこめるのだが、この一連の動作にかかる時間は、わずかに20分の1秒。目にもとまらぬ速さだ。

それがもし人間サイズとなれば目にも止まらぬどころの速さではない。つまり逆を言うなれば悠の動体視力と回避力を持っていたとしても避けることはまず不可能だったという現実だ。

『っていうか、悠ちゃんピクリとも動かないけど……』

心配する亘理を他所に口を開いたのは神姫だった。

「いまの奇襲は大成功だったわね……。だけど、最大の同時に最大のミスを犯したわ。」

『ミス?』



デモンはもう一度叩きつけようと舌を振りあげる動作に入った……。

おれは五体投地の要領で全身をより地面に押し付けたそれを発動した。

「赤龍……地雷電!」

地面と一番接している足の近くに巻きついた舌、そして当然唾液で濡れている。いくつもの相乗効果を含めた雷撃がデモンを体内から焼き尽くす。

「がっ……!?」

痺れて叫ぶことも指先ひとつ動かすことも出来ないまま硬直する魔物。おれは起きあがってトドメの追撃にでた。

まだ全身痛いが一歩目踏み込み間合いを潰し、その勢いで跳ねあがり大きく回転してデモンの横面に浴びせ蹴りをぶつけた。その一擧一動のたびにバチバチ発雷するその姿はまるで雷を従える龍。

ようやく本から目を離し神姫が呟くようにいった。

「中途半端にしか赤龍を操れなくても全身で地面に触れていたら、そこそこの発雷はできる。それに加えて棒立ち状態なら王龍の極(浴びせ蹴り)の大技も当てやすい。そして蹴り技は赤龍と相性がいい。悠の悪運が幸いしたって所かしらね。」
62/100ページ
スキ