ー奇談ー學校へ行こう7

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「あー……」

摩耶「あれ、ずいぶんとくたびれてるね。ヤラシーことしてたの?」

亘理『悠ちゃんっ!!』

悠「してねーし、してたらツヤツヤしてるっての!」

神姫「お盛んだことで」

悠「つ、冷たい。恐ろしく冷たい。なんにもしてないのに……」

【ホレおばさん】
英字表記:FrauHolle
出身地:バート・ゾーテン=アレンドルフ(ドイツ)
出典:グリム童話

千世子「はーい、年明け一発目のじゅぎょーを始めますなのだ。ドイツ中部のヘッセン地方では、雪が降ることを「ホレおばさんが布団を直している」と表現するのだ。これは羽毛のたっぷり詰まった布団をバサバサと動かし、中から羽毛が飛び散る様が、雪のように見えることからついた表現なのだ。」

摩耶「っで、実際は?」

悠「お参りだよ。足で行けそうな近くの神社を回ってた」

亘理『悠ちゃんてそんなに信仰熱かったけ?』

悠「まさか、ただ絵馬をかけに行っただけだ。家内安全、健康祈願、交通安全のをな……っても、おれの絵馬じゃなくて家族とかツレとかのだけどな」

神姫「自分を外してどうするのよ」

悠「おれは神に好かれる気がしない」

千世子「ホレおばさんが登場する物語は、ドイツを代表する童話集「グリム童話」にも、そのものズバリ「ホレおばさん」という題名で収録されているのだ。」

摩耶「でも、女神だったら蕩でしょ?」

悠「おれをなんだと思ってる」

摩耶「蕩」

亘理『無差別ジゴロ』

神姫「すけべ」

悠「へい、誰ひとりプラスがいねぇ!」

千世子「ある未亡人に、美しく働き者の娘と、醜く怠け者の娘いたが、未亡人は実の娘である怠け者の娘を可愛がり、夫の連れ子である働き者の娘を嫌っていたのだ。あるとき美しい娘は、糸紡ぎの道具を井戸に落としてしまうのだ。井戸のなかには美しい草原と立派な家があり、ホレおばさんという大きな歯の老婆が住んでいたのだ。美しい娘は、ホレおばさんの言いつけを守って熱心に働き、喜んだホレおばさんは、美しい娘に大量の黄金を持たせて帰してくれたのだ。」

亘理『でも、私今すっごく驚いたなぁ』

悠「なにが」

亘理『自分のじゃなくひとの健康とか祈ってるところ』

神姫「でも、祈ったのって女関係ばっかりでしょ」

悠「男もいますよ!なんですぐにそういう風に曲解するかな!」

千世子「これに味をしめた未亡人は、醜い娘を井戸に放り込むが、怠け者の彼女は仕事を全くしなかったので、ホレおばさんは怒り、醜い娘の全身に、死ぬまでとれないタールをぶまけて家に帰したというのだ。」

摩耶「悠君の日ごろの行いのせいじゃない?」

雨「ズバリな解答ね」

悠「うーむ……地味に反論できないが……おれだって毎日毎日女とイチイチしてるわけじゃないしな」

神姫「ふーん」

悠「だから冷たい、なんか凄く冷たいよ」

千世子「ちなみにホレおばさんが娘たちに与えた仕事のなかには、「毎日、羽が飛ぶくらい布団を振る(そうすると世界に雪が降る)」という仕事が含まれていたのだ。ホレおばさんと布団の話しは、彼女に欠かすことのできない物語のようなのだ。」

揺光【今夜は妾と夜を過ごすじゃろ】

亘理『なぁぁんっ?!』

悠「どっから現れた……っか、そんな約束はしてない」

亘理『ほっ……』

揺光【その気がないならその気にさせたら善いだけじゃ】
スッ

摩耶「見るからに怪しい液体の入った小瓶だね」

悠「やめろっ!」

千世子「ホレおばさんは単なる人間の魔女ではなく、本来は北欧神話の女神ヘルや、ゲルマン神話の天空の女神ホルダと何らかの関係がある、民間の女神が大衆化して物語の登場人物になった存在だと考えられているのだ。ホレおばさんの世界が井戸の中にあるのは、ヘルが地下世界「冥界」の女神であることと関係しているのだ。以上、ホレおばさんのじゅぎょーだったのだ。」
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