ー奇談ー學校へ行こう7

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

千世子「クリスマスが近いのだ」

悠「けっ」

千世子「なんかあんちんがやさぐれているのだ?!」

悠「全世界のカップルハメを外して一生の恥かけ」

摩耶「リア充爆発しろより嫌味がきいてるね」

神姫「俗物なのよ」

悠「エゴ、さ」

神姫「……」

悠「無言で拳を握らないでくだはい」

千世子「はいはい、じゅぎょーしますなのだ。「キタブ・アル・フィリスト」に紹介された古代の女性錬金術師のなかで、実在した可能性が最も高いといわれているのは、クレオパトラと同様に賢者の石の生成に成功したとされる「ユダヤ人のマリア」なのだ。」

亘理『クリスマスかぁ。プレゼントとかもらえたらやっぱり嬉しいよね』

悠「おれは新しいパソコンが欲しいな」

摩耶「悠君はもう渡す側でしょ」

神姫「娘とがりゅーと真桜とシロヘビ?」

悠「笑えない冗談だな」

千世子「マリアの錬金術師として大きな業績は「トリビコス」と呼ばれる蒸留器を発明したことがあるのだ。蒸留器とは、液体を熱して蒸発させ、その蒸気を冷やすことで、液体の中から蒸発した成分だけを抽出するという技術なのだ。」

摩耶「でも、よくよく考えたら悠君宅でいちばん年上は……悠君なんだよね」

悠「いいたくはないが年に関しては恋、タヌキオヤジ、揺光が三強だ」

神姫「人外を換算してどうするのよ」

悠「まぁ、でも……真桜、白巳、ゆうな、ゆうくらいには何かプレゼントしてやるべきなのかな」

神姫「がりゅーを外してるんじゃないわよ殺しかけるわよ」

千世子「トリビコスは縦に細長い土器の煮沸容器から三本の銅製の管が生えた構造になっていて、土器の頂点で冷やされて液化した成分を、三本の管の外部の容器に導いて溜めるという構造になっているのだ。この装置は後世の錬金術の発展におおいに貢献したため、マリアはのちの錬金術師たちから賞賛され、中には彼女をたたえる詩を書いたものまで居るのだ。」

悠「ガクガクブルブル」

摩耶「殺しかけけるって部分が優しいね」

悠「やさしい、か?」

摩耶「うん。殺さないんだし」

悠「あー……そうか」

亘理『いや、そうじゃないと思うよ』

千世子「「キタブ・アル・フィリスト」で紹介された錬金術師は、クレオパトラ以外にも、ギリシャの哲学者や賢人などの名を偽名として使用されているのだ。これらは錬金術師自身ではなく、後年の写本の作成者が本の価値を高めるためにつけたものと考えられるのだ。」

雨「色々間違ってんのよ」

悠「どのへんから?」

雨「根本的によ」

神姫「でも、クリスマスとかってめんどくさいわよね。色々と必死で」

悠「あぁ、どうカップルの性夜を阻止するか」

神姫「それはもういい」

千世子「古代の錬金術師が、なぜ昔の女王や聖書の人物などの名で呼ばれるのかというと、それは錬金術の思想、姿勢に基づいているのだ。研究による新たな発見で発展していくのが科学だが、錬金術は逆に、太古の知識を再生するのが目的なのだ。」

摩耶「それよりめんどいのはお正月じゃない?」

悠「三が日の暇さ加減?」

神姫「悠は忙しいでしょ。あいさつ回りや親せき行事に」

悠「おれがわざわざ親戚連中の顔を見にいってやるわけ無いだろ」

摩耶「毎年年賀状出してあげてるのに悠君からは一度たりとも送ってくれないしね」

千世子「古代の人々は、錬金術の全てを知っており、それを自由自在に使うことができたのだ。そして世界はこれから愚かで堕落した状態へと落ちて行くだけというのが錬金術の考え方なのだ。だから、錬金術師たちの研究は過去へと向かい、昔の文献の中に錬金術の秘密が隠されているはず、としてそれを細かく読み、理解し、解釈することに専念したのだ。また、過去の高名な人物は、それが古い時代の人物であればあるほど偉大で尊敬するべき人物だと考えたのであるのだ。」

悠「あはは、年賀状なんか一度も書いたことないゃ」

亘理『メール?』

悠「携帯なんか今も持ってねーよ」

亘理『……』

摩耶「ドン引きでしょ。でも、毎年だからね、これ」

千世子「未来に対して悲観的な見方をする一方、錬金術師には自然の中にある法則を発見、理解してそれを利用することで、自然を支配できるという信念があったのだ。あらゆる物質を金に変えるという目標は達成されなかったが、錬金術は科学として実を結び、万物が数種類の素粒子の組み合わせで作られていることを突き止めつつあるのだ。過去から英知を引き出そうとした錬金術師は、未来への礎(いしずえ)となったのであるのだ。以上、コプト夫人クレオパトラとユダヤ人マリアのじゅぎょーだったのだ。」
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