ー奇談ー學校へ行こう5

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「あぁー……ぅー……首痛い」

摩耶「どうしてだろうね」

悠「膝枕のおかげだよ」

摩耶「またいつでもいってね」

悠「あれ、おれ……もしかして首の骨を狙われてる?」

千世子「膝枕って首痛めるのだ?」

悠「リアル膝枕をかまされたら首どころか生命与奪の危機に陥る」

亘理『それ、ホントに膝枕?』

【ティンダロスの猟犬】
別表記:ティンダロスの犬
登場作品:フランク・ベルナップ・ロング「ティンダロスの猟犬」

千世子「はーい、じゅぎょーしますなのだ。多くの神話生物と同じく、ティンダロスの猟犬にも本質的に人間の理解を拒む部分があるのだ。辛うじて理解できるのは、人間とその既知世界が時間の清浄な曲面に沿って生きているのに対し、ティンダロスの猟犬は時間の不浄な角度に沿って生きているという理屈だけなのだ。」

摩耶「そういえば焔魔岩はどうなったの?」

悠「あぁ、ちゃんとメフィのオッサンに渡しといた。テルミットの火力で事足りたみたいだ」

神姫「よくアルミニウム集めたわね。」

悠「一円玉五百枚ほど削ったからな」

神姫「それ犯罪よね。貨幣損傷等取締法」

悠「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」

神姫「……それもそうね」

亘理『まさかの納得?!』

千世子「人間の目に映るティンダロスの猟犬の姿は、悪臭を放つ青い膿汁を絶えず滴らせた、長い舌を持つ四足獣なのだ。そのフォルムは体毛の無い大きなグレイハウンドに似ていなくもないが、その肉体は通常の生活活動に必要な酵素を全く欠いていて、地上の生物とは根本的に異なっているのだ。」

摩耶「あとは超低温だけ?」

悠「こっちのはハードだな」

神姫「液体窒素をぶっかけるのが王道でしょ」

悠「オーバークロックみたくいうよな」

千世子「この恐るべき怪物の本拠地については、想像も及ばないほどの過去の時間の角、外宇宙のかなた、時間を漂う都市の螺旋の塔といったものから、全ての空間に同時に存在するなど様々に言われているのだ。一説によれば、ティンダロスの猟犬はノス=イディクとクトゥンという存在から生まれ、ムイスラという王を戴いているのだが、「ティンダロス」という名称の由来を含め、本当のところは全く分からないのだ。」

悠「まぁ、冷却はいまの状態でしばらく放置して様子見だな」

摩耶「どういうこと?」

悠「いま、家の冷凍庫にブッ込んである。」

神姫「えらく規模が下がったわね。」

悠「まずは現実的かつ手軽な方法から選んだまでさ」

千世子「人間が不遜にも自分に属する時間の流れを越えようとするとき、猟犬の鋭い嗅覚は闖入者の匂いをただちに捉え、無数の時空の角度を伝って何処までも追跡してくる危険なストーカーと化すのだ。ティンダロスの猟犬には角度を通りぬけることでしか三次元空間に実体化できないという性質があるのだ。」

亘理『そこまで必要あるの?』

悠「半分はおれの維持だ」

摩耶「ヒマつぶしって意味ね」

義鷹「いっそあの雌狐にやらせろよ」

悠「揺光のことか?」

義鷹「火を操れるやつは大抵逆のものも操れる。」

悠「火属性は水属性が苦手じゃないのか?」

義鷹「そんなもんゲームだけだ。普通に自分の不得手何か無くすに決まってんだろ」

千世子「そこで、遼丹という魔法役を用いて精神的なタイムトラベルを試み、猟犬に嗅ぎつけられたハルピン・チャーマズという作家は、自室の隅という隅をセメントや石膏で塗り固めて猟犬をやり過ごそうとしたのだ。しかし猟犬と同盟関係にあるドールという怪物が引き起こした地震でこの部分が剥がれおちてしまい、実体化した猟犬の牙にかかってあえない最期を遂げたのだ。」

摩耶「義鷹は出来ないの?」

義鷹「液体窒素を作れってのならできるが」

悠「どやって……まさか吐き出すのか?」

義鷹「アホか。分子分解して液体窒素に組み買えるんだよ」

摩耶「そんなことできるの?」

義鷹「如意機を使えば出来る。けど、めんどくさい」

悠「おいっ!」

千世子「また「エイボンの書」の記述を信じるならば猟犬の追跡は夢の中まで及ぶことがあるので、こうした対策ですら一時的な効果しか発揮しないのだ。なおハイパーボリアの魔術師ヴェルハデスは、金属の球体を用いてルルハリルという名のティンダロスの猟犬の個体を捕らえてジレルスの石の中に封じ込め、使い魔のように使役してライヴァルの魔術師たちを虐殺していったと伝えられているのだ。以上、ティンダロスの猟犬のじゅぎょーだったのだ。」
99/100ページ
スキ