ー奇談ー學校へ行こう

ー教室(12/29/夜)ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業がはじまろうとしていた。

千世子「今日もさっそくじょぎょーをはじめるのだ」
千世子は例のごとく黒板に文字を書き出していく。

【ピラトゥス山のドラゴン】
生息地域:ピラトゥス山(スイス)

出典:スイスの民間伝承

摩耶「僕、ヨーロッパって行ったことないんだよね。」

悠「俺もヨーロッパは無いな。たぶん」

花描「たぶんて…」

神姫「……」

千世子「ヨーロッパには、人間を食べたり誘拐するなど、人間と敵対するドラゴンが多いのだ。けど、人間に友好的なドラゴンが居ない訳じゃないのだ。イタリアの北にあり、アルプス山脈を国土にもつスイス国のピラトゥス山には、事故にあった人間を看病した優しいドラゴンの物語が残されているのだ。」

悠「ピラトゥス山……あぁ。」

花描「知ってるのか?」

悠「思い出した。ピラトゥス山はドラゴンの山の異名をとるほどドラゴンの伝説の多い山だ。」

千世子「そうなのだ。だから今回のドラゴンもそのうちのひとつに過ぎないのだ。もちろんドラゴンの外見も話しによって違うのだ。今回のドラゴンはうろこにおおわれた巨大な体に、大きな角と翼をもつという、いかにもドラゴンらしい姿をしているのだ。」

神姫「どんな話なの?」


千世子「樽職人のクーパーという青年が、冬のピラトゥス山にやってきたところからこの伝承は始まるのだ。青年は山道で足を踏み外し、谷底に落ちて気を失ってしまったのだ。彼が目を覚ますと、目の前にいたのは二体の巨大なドラゴンだったのだ。」

摩耶「テラ怖いね」

悠「目が覚めて道玄のおっさんと神姫に睨まれたらそりゃこわっ…」

神姫は指を弾いた。
悠はベチンと音を立てて床にキスをした。

千世子「死を覚悟したクーパーだったが、ドラゴンは彼を食べるどころか、負傷したクーパーを介抱しはじめたのだ。」

花描「ピエロ君生きてるか?」

悠「介抱してくれ…」

千世子「クーパーはドラゴンが洞窟の壁面から取ってくれた「ムーンミルク」というチーズのような物体で飢えをしのぎ、暖かいドラゴンに抱かれて眠ったので真冬の寒さも苦にならなかったのだ。春になるとクーパーは、ドラゴンに山の麓まで運んでもらい、数ヵ月ぶりに故郷に帰ることができたというのだ。」

悠「痛っっ…ちなみにムーンミルクってのは実在する物質なんだけど、洞窟の表面にこびりつくクリームチーズみたいな鉱物な…食えないから」

千世子「ピラトゥス山という名前は、イエスキリストに死刑判決をくだしたローマ帝国の総督「ポンティウス・ピラトゥス」の霊魂が、死後この山にたどり着いたという伝承からつけられた名前なのだ。」

悠「ピラトゥス山は今、観光地になってて、世界で一番急な勾配を登ることで有名な「ピラトゥス鉄道」って電車が運行されてて、ピラトゥス鉄道の会社ロゴにも赤いドラゴンの姿が描かれてるぞ」
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