ー奇談ー學校へ行こう

ー教室(12/27/夜)ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代に取り残された廃校で授業がはじまろうとしていた。

千世子「みんなー、今日も揃ってるなー」

悠「おう。」

摩耶「はーい。」

花描「いるぜぇ」

神姫「……」

千世子「じゃあ、今日はこのドラゴンについて勉強します」

千世子は黒板に文字を書き出していく。

【スピンドルストンの竜】
生息地域:ノーサンバーランド地方(イングランド)

出典:イングランドの民間伝承

悠「民間伝承好きだな。」
千世子「千世子が好きなんじゃなく、ドラゴンの話は民間伝承が多いだけなのだ。」

悠「解っていったんだけどな」

千世子「あんちん、減点なのだ。」

悠「をい、このやろー。」

花描「野郎じゃないけどな」

千世子「さて、「悪い魔法使いによって、王子様やお姫様が動物に変えられる」というのは、童話などによく見られる定番のパターンなのだ。イギリスには、動物じゃなくドラゴンに変えられてしまった王女の物語「スピンドルストンの醜い竜」があるのだ。」

摩耶「醜いアヒルの子なら知ってるけど」

悠「最後腹裂かれる奴な。」

神姫「金の卵のガチョウでしょ」

花描「鶏じゃなかったか?」

悠「あれ?」

摩耶「皆あやふやだね」

パンパンと手を叩いて千世子は全員の視線を集めた。

千世子「はーい、ちゃんじゅぎょーにしゅうちゅーしてください」

悠「集中」

千世子「集ちゅー」

悠「ちゅう」

千世子「ちゅー」

悠「悪かった。授業すすめてくれ。」

千世子「この伝承は、イギリスの国土の大部分を占めるブリテン島の東部にある、ノーサンバーランド地方に伝わっているものなのだ。物語の舞台はこの地方に実在する「バンバラ城」から始まるのだ。この城の王女は、父王の再婚相手であった魔女から呪いをかけられ、ドラゴンに変えられてしまったのだ。」

摩耶「魔女性質が悪いね。」

花描「魔女でも可愛いのはいるんだけどな。」

千世子「王女が変身したドラゴンは非常に醜く、胴体はとぐろを巻けるほど長かったのだ。これ以上詳しい姿はかかれていないけど、この物語を題材にして書かれた絵本「おざましいりゅう」では、緑色で角のある巨大なトカゲの姿で描かれているのだ」

摩耶「悠くん、もってる?」

悠「さすがに絵本はないな。」

千世子「ドラゴンになった王女は、けわしい崖のあるスピンドルストン地方に住み着いたのだ。このドラゴンの吐息には強烈な毒が含まれており、竜の住みかから周囲七マイル以内では草も育たないのだ。」

摩耶「七マイルって…」

神姫「…約11km」

千世子「変身によって知能や感情までドラゴン並みになったのか、周囲を暴れることも多くなったのだ。人々は毎日牛七頭分ものミルクをドラゴンに与えてなだめたため、苦しい生活を強いられていたのだ。」

悠「俺はミルクより、酒のがいいな。」

神姫「寝てるところ首跳ねられるわよ」

悠「わしゃヤマタノオロチか」

千世子「王女の苦境を救ったのは、兄である王子だった。彼はスピンドルストンの岸壁住むドラゴンが自分の妹だと確信し、少数の部下とともに竜のもとへ向かったのだ。そして魔女が設定した呪いの解除条件「実の兄が三回キスをする」を実行したので、王女は姿も心も元通りになったというのだ」

摩耶「ちゅーだね」

花描「ちゅーだな」

悠「なんで俺を見る。あ、ちなみに怪物になった女が男のキスで元に戻る物語は世界中にあって「魔法で変身した兄弟がキスで元の姿に戻る」パターンをAT450Aっていうんだ。ATってのは民族学者トンプソンが世界の民話を話の内容で分類したんだ。これを「AT分類」っていうんだ。」
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