ー奇談ー學校へ行こう5

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「神姫さん」

神姫「嫌だ」

悠「まだ、何もいってないのに?!」

神姫「今読書中黙って。」

摩耶「本読んでる時に話しかけられるとイラっとするよね」

悠「まぁ……するけどさぁ」

千世子「はいはーい、今日は雨ちゃんぽい旧支配者のじゅぎょーなのだ」

雨「私っぽい?」

【アトラク=ナクア】
別表記:アトラック=ナチャ
登場作品:クラーク・アシュトン・スミス「七つの呪い」

亘理『アトラク……アト子ちゃん?』

悠「おまえ何気にニャル子全巻制覇してんだな」

亘理『暇で暇で仕方ない私に読書を辞めろと?』

悠「なんかごめん」

千世子「アトラク=ナクアは、ツァトゥグァと同じく土星から地球へと飛来し、ハイパーボリアで崇拝された旧支配者なのだ。全身を黒い毛に覆われた蜘蛛の姿をしていて、どことなく歪んだ人間を思わせる顔つきと真っ赤な目が特徴なのだ。」

雨「……」

義鷹「おまえはアシダカ蜘蛛だよな」

雨「ジョロウグモよっ!!」

摩耶「そこはしっかり区別しとかないと怒るポイントなんだ」

雨「フォルムと気品が違うのよっ!!」

悠「蜘蛛に気品?」

雨「カチカチカチカチ!」

悠「うん、久々に蜘蛛化辞めて」

千世子「この神は、クトゥルー神話の神々の中でも比較的人間に近い精神を持っているようで、甲高く神経に障る声ではあるが、人間の言葉を用いて意思の疎通を図ることが出来るのだ。」

雨「私だって意思の疎通くらいできる」

悠「え、張り合ってる?」

雨「当然」

義鷹「やめとけ、お前は決して戦闘能力高くない」

雨「戦闘能力でなんでも図るな!!」

千世子「また、アトラク=ナクアが地球上のすべての蜘蛛の支配者だという説もあるのだ。これを裏付ける例として、夢の国に住まう「レンの蜘蛛」と呼ばれる紫色の大蜘蛛が、アトラク=ナクアを崇拝していることが知られているのだ。」

亘理『崇拝してる?』

雨「してないわよ!今初めて聞いたし」

悠「土蜘蛛とかが好みのタイプ?」

雨「しばくわよ」

千世子「アトラク=ナクアは、灰色の織り手と呼ばれる眷属たちとともに、地球の中心近くにある無限の峡谷に住んでいるのだ。強靭な糸を紡ぎ出し、底なしの深淵にかけ橋のような巣を張り巡らすのがアトラク=ナクアの仕事なのだ。この峡谷はかつて、ハイパーボリア大陸のヴーアミタドレス山の地下にあったのだが、氷河期後の地殻変動でこの地が滅びた時、この洞窟もまた地中深くへと沈降したのだと考えられるのだ。」

神姫「……タランチュラとは仲いいの?日本の蜘蛛って」

雨「いや、あったことないし」

悠「今度持ってこようか?」

摩耶「最近はペットショップで売ってるもんね」

千世子「計り知れない広さの深淵の底で、アトラク=ナクアが永遠にも似た長い時の中、一心に巣を作り続けている理由については確かなことが分からない。ただ、古い書物によれば、アトラク=ナクアが巣をかけ終えた時が世界が終わるときなのだというのだ。」

悠「完成予想図が想像できないな」

神姫「余裕で世界を絡め捕れそうな規模なんじゃないの」

摩耶「それって巣?」

亘理『あ、なんか気持ち悪くなってきた』

千世子「アトラク=ナクアは比較的温厚な神ではあるが、作業を中断させられることを最も嫌っているのだ。食事に時間をかけることさえも厭うほどなので、予期せぬ訪問者や召喚を試みる魔術師などは、怒り狂ったアトラク=ナクアから手酷い仕打ちを受ける可能性が高いのだ。アトラク=ナクアは餌となる生物や犠牲者に噛みつくと、麻痺をもたらす物質を注入して動きを止めてしまうのだ。この麻痺成分は適切な医療処置を受けたとしても、回復するには半年以上かかる強力なものなのだ。」

義鷹「おまえ毒あるのか?」

雨「そんな野蛮なもの無いわよ」

悠「でも蜘蛛って基本糸に絡めた獲物を溶かして啜るんだよな」

雨「啜って欲しいの?」

悠「うん、ごめんこうむる」

千世子「なお、西洋宗教史学者として知られる甲斐輝三博士によれば、毎年六月六日午前六時六分六秒、アトラク=ナクアが呼吸をするため、この世に存在するあらゆるトンネルの中を同時に横切るという文章が「ガールン断章」に記述されているというのだ。以上、アトラク=ナクアのじゅぎょーだったのだ。」
45/100ページ
スキ