ｰ教室ｰ

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「神姫に叩き潰されるたびに顔が平たくなってる気がする」

神姫「ふうん」

悠「え、もうちょっと反応してよ」

神姫「こっち向いて」

悠「あ?」

神姫「そのまま……じっとして」

むぎゅ……ぎりりりっ!

悠「いゃぃゃぃゃぃ!!」

亘理『……あれ、なにしてるの?』

摩耶「僕の推理では鼻引っ張って平らを直そうとしてるんじゃないかな」

悠「顔の皮膚が千切れるよ!!」

千世子「はーい、では前の続きを初めまーすなのだ。有史以来、人々はシュブ＝ニグラスを、自明の理として女神と規定したのだ。実のところ、旧支配者たちは男女の性別を超えた存在であり、シュブ＝ニグラスもまた「水神クタアト」にそう書かれているような両性具有の存在なのだ。」

雨「カタツムリと同じね」

亘理『カタツムリ?』

雨「カタツムリは雌雄同体なのよ」

悠「つまりは……ふたなり」

神姫「そういうの好きなの?」

悠「……控え目にいって食指は働きますなぁ」

神姫「じゃあ、はい」

ピッ……ぺちょ
ナメクジ『うごうご』

悠「ひっぎ?!」

亘理『固まった』

摩耶「悠君、ナメクジ嫌いなんだよ」

千世子「しかしながら、シュブ＝ニグラスは間違いなく概念としての「母」であり、古代ムー大陸の人々のみならず、ユゴスの名で知られる冥王星のミ＝ゴたちは「彼女」の多産を豊穣と結び付け、大地母神として崇拝したのだ。」

雨「へー、それは良いこと聞いたわ」

摩耶「でも、調子に乗って追い詰めると危ないよ」

悠「おぉ……おれの机の上に魔物がぁ……」

亘理『カタツムリも嫌い?』

悠「カタツムリは可愛いから平気だよ」

亘理『殻があるか、無いかの差だと思うけど』

悠「全然違う!!」

千世子「実際、シュブ＝ニグラスは、クトゥルーがその崇拝者に豊漁を約束したように、崇拝への見返りとして大地の実りと猟の獲物をもたらしたということなのだ。あるいは、ハイパーボリア大陸において崇拝されたというヘラジカの女神イホウンデーもまた、シュブ＝ニグラス崇拝の別の形だったのではないだろうかなのだ。」

摩耶「ナメクジが苦手ってしってたの?」

神姫「いいえ、そこに這ってて目障りだったからパスしたの。」

摩耶「虫とか平気系?」

神姫「見る分には平気だけど触りたくは無いわね」

悠「いいから、早くコイツをどうにかしてくださいっ!」

千世子「アヴァロンやニライカナイなど、一年を通してたわわに果実が実り、生命の喜びに満ちた常春の島にまつわる伝説が世界各地に伝わっているが、そのルーツをたどるとシュブ＝ニグラス崇拝に到達するのかもしれないのだ。大地母神信仰は根強く、世界宗教になったキリスト教すらも、聖母崇拝という形でこれを取り込まざる得なかったのだ。以上、シュブ＝ニグラスのじゅぎょーだったのだ。」

悠「バルサン焚くぞバルサン!!」

雨「やーめーてーっ!!」

摩耶「ほら、強行手段に出だした」