ー奇談ー學校へ行こう

ー教室(12/18/夜)ー


夜に行われる不思議な授業。
今日も三名の生徒の前に、千世子は教鞭を振るっていた。

千世子「はいはあーい。今日はこれなのだ」

【ゴルィニシチェ】
生息地域:ウクライナ
出典:ロシアの民間伝承『ブィリーナ』

神姫「ブィリーナってたしかロシアの民間伝承の物語集よね。」

千世子「神姫ねーちん、正解なのだ。この作品には、人の言葉をはなして、狡猾で卑怯な性格のドラゴン「ゴルィニシチェ」が登場するのだ。」

摩耶「ロシアの伝承なのにロシアの西にあるウクライナなの?」

千世子「このドラゴンはウクライナの首都「キエフ」にあらわれたから、ウクライナのドラゴンと紹介するのだ。ゴルィニシチェは3つの頭と7つの爪をもつドラゴンで、鼻孔と口からは炎が吹き出てて、耳からは煙が立ち上がってるのだ。ゴルィニシチェがあらわれるときは、たとえ快晴であっても空は暗くなり、雷鳴がとどろいたらしいのだ。」

悠「崇と話すとまわりの温度が下がるみたいなもんだな」

摩耶「僕は悠くんと話すとあったかくなるよ」

悠「止めろよ。照れるだろ。」

千世子「はーい、じゅぎょーきいてくださぁい。ゴルィニシチェはよく人間をさらうドラゴンだった。さらわれた人々はゴルィニシチェが住む山の洞窟に閉じ込められていた。この洞窟には頑丈な扉があり、鉄のかんぬきと金の錠前で厳重にロックされてたというのだ。」

摩耶「……え、ドラゴンが錠前かけたの?」

千世子「いい質問。一般的にドラゴンといえば指には太い爪があって、不器用そうに思うけど、すくなくともゴルィニシチェは錠前を扱えるくらいには器用なドラゴンだったらしいのだ」

悠「まぁ、馬に乗るドラゴンが居るくらいだしな。おかしくはないだろ」

千世子「ブィリーナの物語で、ゴルィニシチェはドブルイニャという英雄に殺されるという予言を受けていたのだ。これに恐れた竜は、川で水浴びをしているドブルイニャを襲ったのだ。」

摩耶「清々しい卑怯だね」

悠「手段を選ばないって感じだな」

神姫「姑息だわ。」

悠「俺は嫌いじゃないけどな。」

神姫「……」

悠「にらまないで…」

千世子「丸腰の相手なら勝てるという計算だったのだが、英雄ドブルイニャは丸腰のハンデもものともせずに竜を倒してしまったのだ。ゴルィニシチェは「二度と人を襲わない」「ドブルイニャの国では戦わない」などの誓いをたてて命乞いし、なんとか許されたのだ。」

摩耶「なんかオチがわかったかも」

千世子「ところがこの卑怯な竜は、最初から条件を守るつもりもなく、ゴルィニシチェはすぐさまキエフという国を襲撃し、姫をさらってしまったのだ。」

神姫「テンプレね。てゆーか姫も姫よね。抗いなさいよ」

悠「いや、神姫じゃあるまい…なんでもないです」

千世子「もちろんこれをみのがす英雄ドブルイニャではないのだ。こんどは完全武装して駆けつけた英雄によってゴルィニシチェは殺され、姫も救出されたのだ」

摩耶「うん、グッドエンドだね。」

悠「ちなみにブィリーナに収録されてる物語は、11~16世紀ごろの歴史を元に創作されたものなんだ。物語に実在の人物が多く紹介される物語にドラゴンが登場するから、ロシアの民衆にとっては竜は身近な存在だったのかもな。」
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