ー奇談ー學校へ行こう

ー教室(12/17/夜)ー

毎夜行われる、夜の授業。
今日も廃校の教室では数人の物好きな生徒が集まり始めていた。

神姫「……」

悠「……」

神姫が教室に入ると、まだ悠だけしか居なかった。

神姫「こんばんわ。今日もよく冷えるわね」

悠「……」

悠は椅子に座って足を組んだまま返事をしない。

神姫「ちょっと…ん?」

悠「ぐー……」

神姫「寝てるの?」

悠「ぐー……」

神姫「……(そういえば、悠ってなんか朝から晩まで動きぱなしとかいってたわね。もしかして、冗談じゃなくて本気だったのかしら。)」

悠「ぐー……」

神姫「……」

そっと悠の指先をなぞる。

悠「ぐー……」

神姫「ふうん…男の手してるのね……はっ……なにしてんだろ私」

摩耶「こんばんわ~」

千世子「悠のあんちんきてるかぁー」

神姫「!?」

神姫は悠を思い切り突き飛ばした。
椅子に座ったままの体勢で真後ろに倒れる。

悠「痛っ!な、なんだ?」

神姫「……寝てんじゃないわよ。」

悠「えっ、えぇ…」

摩耶「……」

千世子「な、何かよくわからないけどじゅぎょーをはじめるのだ。」

悠「ええー、俺の惨劇は流されるの…」

千世子は黒板に文字を書いていく。

【ファルニゲッシュ】
生息地域:ハンガリー
出典:ハンガリーの民間伝承

千世子「その昔、東ヨーロッパの国「ハンガリー」には、フェルニゲッシュというドラゴンの首領がいたというのだ。この竜は黒い体と翼をもつ立派なドラゴンだったのだが、他の地域で一般的なドラゴンのイメージとはかなり違った部分がある。人間の言葉を話すばかりか、葉巻タバコを吸ったり、馬に乗ることができたというのだ。」

摩耶「これがほんとのドラゴンライダーだね」

悠「上手いこというな。」

神姫「……」

千世子「このドラゴンはハンガリーの民間伝承「勇士ヤーノシュと黒竜フェルニゲシュ」に登場する。竜に立ち向かう若き勇者ヤーノシュの活躍を描いた物語なのだ。」

摩耶「どんな話?」

悠「ある城の石桶のなかに封印されていたフェルニゲシュは、お城の姫様と結婚したヤーノシュの不注意によって解放されるんだ。フェルニゲシュは姫を誘拐して自分の領地に飛び立っていって…」

千世子「あんちんストップ!千世子が、千世子が説明するの!」

悠「はい、ぴよこ先生にお任せしますよ」

千世子「こほん、ヤーノシュはすぐに、姫を救いだす旅に出るのだ。王女を助ける旅の途中、ヤーノシュは頼もしい味方を手に入れる。」

摩耶「悠くんだね」

悠「民話にでねぇよ。」

千世子「それは三体のドラゴンなのだ。6、12、24本の首を持つ兄弟竜。じつは彼らはフェルニゲシュを石桶に封印した張本人で、ヤーノシュの三人の姉たちをなかば無理矢理連れ去り、妻に迎えていた。つまり、ヤーノシュにとっては義理の兄になるのだ」

摩耶「義兄の…竜?」

悠「そうなるな」

千世子「その義兄竜達と姫を奪い返すため知恵を絞るが、義兄竜いわくフェルニゲシュは「自分達が1000人集まっても勝てない」ほど強力なのだという。ならば速さで勝負と、姫をさらって馬で逃げるヤーノシュだが、五本足の馬に乗ったフェルニゲシュにあっというまに追い付かれ、姫を取り戻すどころか鋭い爪でばらばらにされてしまうのだ。」

摩耶「弱っ……あれ、死んでない?」

悠「その後、兄竜の不思議な力で蘇生するんだ。んで、速さに対して、さらなる速さで対抗するんだよ。」

神姫「学習能力ないの?」

千世子「違うよ。こんどはヤーノシュは六本足の馬を手に入れて、姫をさらい、五本足の馬を引き離すのだ。焦ったフェルニゲシュが馬にザクザクと拍車を当てると、あまりの酷使に嫌気がさした五本足の馬は、高く飛び上がって黒竜を振り落としたのだ。フェルニゲシュは地面に激突して絶命し、ヤーノシュは姫を奪還したのだ。」

摩耶「……フェルニゲシュ飛べばよかったんじゃないの?」

悠「だよなぁ…」
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