ー奇談ー學校へ行こう

ー教室(12/9/夜)ー

夜八時となり、本日も授業が始まろうとしていた。
教卓の前に立って千世子は点呼をとりはじめる。

千世子「悠のあんちん」

悠「ちぇき。」

千世子「まーや」

摩耶「はいはーい」

千世子「神姫ねーちん」

神姫「居るわよ。」

千世子「うんうん、全員いるな。じゃあ、今日はこれ。」

【聖マルガリータのドラゴン】
生息地域:アンティオキア(トルコ)
出典:キリスト教の伝説『黄金伝説』

摩耶「聖ゲオルギウスじゃなかったの?」

千世子「まーやはいつもいい質問すなぁ。黄金伝説には、聖ゲオルギウスのほかにも、ドラゴンを倒した成人が何人も登場する。今回授業する聖マルガリータはそのなかでも変わり種で、ドラゴンに呑み込まれながら、信仰の力で生きたまま脱出するという、現代の手品師もびっくりの離れ業をみせてるのだ」

摩耶「現代の奇術師ならかのうだよね!」

悠「いや、おれ奇術師じゃないし…喰われた経験もないし。」

神姫「……」

千世子「ほとんどの場合、キリスト教の物語りに登場するドラゴンは悪魔が姿を変えたものである。聖マルガリータを飲み込んだドラゴンの正体も、敬虔なキリスト教徒であるマルガリータを襲った悪魔だ。ふたりはしばしば絵画などの題材となっており、そこでドラゴンは長い首と一本の角があるトカゲのような姿や、蛇のような外見で描かれることが多いのだ。」

神姫「聖マルガリータはどうやって脱出したの?」

千世子「えと…それについてはまず、ドラゴン退治の聖人である聖マルガリータの事から説明するのだ。聖マルガリータは、ヨーロッパとアジアが交わる地であるトルコ南部の都市「アンティオキア」で生まれたという。美しく成長したマルガリータは、アンティオキアをまとめるローマ帝国の総督に結婚を申し込まれるが、結婚の条件がキリスト教を捨てることであったため拒否したのだ。」

摩耶「あー嫌だね。なにかを条件に結婚するとか」

神姫「嫌なら断ればいいそれだけよ。だからマルガリータはそれで正解なんじゃない」

悠「摩耶を見て話せよ…」

神姫「うっさい。」

千世子「マルガリータの返事に激怒した総督は、彼女にひどい拷問を加え、地下の洞窟を改造して作った天然の牢獄に閉じ込めてしまった。」

摩耶「器ちっちゃ…」

悠「男のヒステリーは醜いな」

千世子「マルガリータが牢獄に入ると、悪魔がドラゴンの姿をして彼女の前にあらわれ、彼女を丸のみにしてしまう。ところが、マルガリータが竜の腹のなかで神に祈ると、なんとマルガリータは徐々に大きくなっていった。そして祈りを捧げる十字架の部分からドラゴンの腹が裂け、彼女は死の淵から無傷で脱出したのだ。」

神姫「なかなかキツい生還ね…。」

千世子「この「竜の腹から無傷で脱出した」という物語から、後世マルガリータは妊婦を守護する聖人となった。彼女は数ある聖人のなかでも非常に人気があり、教会によっては「十四救難聖人」のひとりに数えられることもあるのだ。」

摩耶「ちょこせんせー、十四救難聖人ってなんですか?」

千世子「十四救難聖人とは、その名の通り人間を苦しみから救う14人の偉大な聖人たちのことなのだ。鍛冶屋、妊婦、農民、病気の治療などさまざまな守備範囲を持つ聖人がいて、彼らに祈りをささげれば苦しみから救われると信じているのだ。」

摩耶「ふぅん…」

千世子「さ、聖マルガリータのドラゴンについてのじゅぎょーは終わりです。明日は「タラスクス」のじゅぎょーをしまーす」
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