ー奇談ー學校へ行こう2

ー教室(4/14/夜)ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業がはじまろうとしていた。

悠「エロイムエッム、エロイムエッム、バランガバランガ、唱えよう~」

摩耶「悪魔くんのオープニングって古いね~」

悠「おれの中では懐かしの名曲で名アニメなんだけどな」

千世子「知らないのだ」

花描「今の二十代あたりがメインかな」

神姫「よくそんなの知ってるわね」

悠「オタクだからねん」

千世子「それじゃあ、悪魔くんじゃなくサタンのじゅぎょーの続きなのだ。キリスト教のもとになった宗教であり、聖書をキリスト教と共有するユダヤ教の「旧約聖書」には、サタンという単語が何度も登場するのだ。だけど、初期のユダヤ教において、サタンという単語は、悪の首領にして神の敵である「悪魔サタン」とはまったく違う意味をもっていたのだ。」

悠「ミスターサタン」

花描「それはおっさんだ」

摩耶「チャ~ラ、ヘッチャラ~」

千世子「最初に話したとおり、サタンという単語は「さまたげる者」という意味を持っているのだ。この名前は、じつはサタンが悪の存在であることに直結しないのだ。初期のサタンは悪魔ではなく、神の命令によって人間の行動をさまたげる天使だったのだ。」

悠「旧約聖書の書物のなかでも、はじめてサタンが登場する民数記でも、サタンは人間の足止め係だしな。」

千世子「彼はユダヤの民を呪おうとした呪術師バラムの前に立ちはだかってバラムを脅し、呪いをかけることを諦めさせたのだ。」

花描「それなのに悪の権化になったのか?」

千世子「いいポイントなのだ。けど、その話にいくまえにもうひとつ注意することがあるのだ。サタンという名前は、悪魔の一個体を指した名前ではないのだ。人間を止めたときに天使はすべてサタンと呼ばれたのだ。つまりサタンとは「人間の行動阻止を役目とする天使」の総称だったのだ。」

摩耶「悠くんはサタンにいつからなったの?」

悠「二年前くらいから……って、人間やめてねぇから。」

千世子「聖書で使われるサタンという単語にはもうひとつ意味があるのだ。日本語では判断できないが「satan」の先頭のsが小文字で書かれている場合、これは天使の役割名ではなく「敵対者」という意味の一般名詞として使われるのだ。旧約聖書「列王記」でイエス・キリストは自分の発言に異をえなえた弟子ペテロを叱るときに、ペテロのことをサタンと呼んでいるのだ」

神姫「ユダのことじゃないのね」

悠「ユダが裏切るのはまだ先だからな。」

千世子「サタンという単語が天使を意味していたのは紀元前5~6世紀頃のことだったのだ。けど、それから時が過ぎると、サタンはいつのまにか神の命令に従う天使ではなくなり、神の意思に背いて悪事をはたらく悪魔へと変わっていったのだ。キリスト教が成立して新約聖書が作られた西暦1~2世紀ごろには、サタンは完全に悪を具現化した存在に変わっていったのだ。」

花描「なるほどな。」

千世子「けど、この段階になってもサタンという単語は個人名ではなく、神に敵対する悪魔の総称だったのだ。サタンに人格が与えられ、独立した一体の悪魔と見なされるには、六世紀ごろまで待たなければならなかったのだ。」

神姫「じゃあその間まで悪魔の筆頭はどうなってたの?」

千世子「しばしば他の悪魔が占めることになったのだ。光の堕天使ルシファーと蝿の王ベルゼブブを筆頭に、ベリアル、マステマ、アザゼルなどが、各種の文献で悪魔の筆頭ということになっているのだ。以上サタンのじゅぎょーだったのだ」
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