ー奇談ー學校へ行こう(2)5

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「スキュラ、これ冷やしてくれ」

サタン「フ~ッ」
冷えっ、キンッ!

悠「ズズッ、うん、良い味だ。」

摩耶「わざわざ熱々のコーヒーを淹れて、冷ましてから飲むんだね。」

悠「アイスコーヒーがいいね。」

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。紀元前1世紀ごろ、ローマにノニウスという元老院議員を務めた人物がいたのだ。彼は、はしばみの実ほどの大きさのオパールの指輪を大切にしていたのだ。」

悠「コーヒーはアイスがうまい、例え冬でも」

摩耶「寒い寒い言うくせに」

サタン「めんどい奴なのだ。」

亘理『ところでげんろーいんぎいんってなに?』

神姫「ローマの国政を決定する議員のことよ。」

千世子「西洋で「はしばみの実」というのは、お菓子の材料になる「ヘーゼルナッツ」のことですから、どんぐりぐらいをイメージするとよさそうなのだ。さて、彼の持っているオパールの評判は、やがて有名な将軍、アントニウスの耳にも届くのだ。かの絶世の美女、クレオパトラに夢中になった人物なのだ。」

神姫「でも、温かいコーヒーがいつでも飲めるのは悪くないわね。」

悠「だしょ?」

亘理『だしょ?』

悠「「だろ」と「でしょ」を足して割ったものだ」

摩耶「なぜ足して割る必要があったのか。」

千世子「アントニウスも当時の権力者であり、宝石に並々ならぬ関心があったのだ。このノニウスのオパールを譲って欲しいと彼に頼むのだ。しかし、ノニウスはどれほど頼まれても、オパールを譲ろうとはしませんでした。アントニウスは業を煮やし、ついにはノニウスをローマから追放する、という事態にまで、話はこじれるのだ。ところがノニウスは、オパールへの執着もあっただろうし、アントニウスへの意地もあったのだ。ついに追放されるという時にも、そのオパールを持ち去ったのだ。」

悠「コレガワカラナイ」

摩耶「悠くんが分からなかったらみんなわからないだろうね。」

悠「迷宮入りってやつか」

神姫「悠の脳みそが迷宮入りしてるのよ」

悠「……なんかカッコいいということは理解した」

千世子「プリニウスは、自分の欲しい物を手に入れるためには手段を選ばない、アントニウスの高慢で残虐な仕打ちを非難していますが、同時に、たった一つの宝石に執着して、人生を棒に振ることになったノニウスの頑固さにも飽きれているという感想を残しているのだ。」

神姫「……」

悠「やだ、ガン無視」

亘理『次は無いって殺意の籠った目をしてるけど』

悠「大丈夫だ、慣れてる。」

サタン「修羅場をくぐってるのだ。」

摩耶「そういうのではないと思うよ。」

千世子「しかし、古来宝石にまつわる、忌まわしき逸話には事欠かないのだ。宝石の輝きとは、それほど人を惑わすものだ、ということなのだ。今回はここまでで続きは次回なのだ。」
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