ｰ教室ｰ

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「目が……」

摩耶「潰れた!今度こそ潰れた!!」

悠「おれの目が潰れることを喜々としてないか?」

摩耶「してますん」

悠「その返し大好きなんだけどなぁー」

【麻桶の毛】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。妖怪の姿は数あれど、徳島県三好郡に伝わる「麻桶の毛」ほど変わった姿をした妖怪も珍しいなのだ。その姿は、なんと一本の「毛」なのだ。」

亘理『それで目がどうしたの?』

悠「いや、別に」

亘理『なんなの?!』

悠「みんなのアイドル悠君ですが?」

神姫「頬骨砕いていい?」

千世子「麻桶の毛は妖怪と呼ばれることもあるが、オシラサマと同じように、本来は神として祀られているものなのだ。かつて徳島県にあったという弥都波能売(みつはのめ)神社のご神体は、麻桶に入れられた一本の毛であったのだ。この毛には不思議な力があり、神様の心が平常な時はそのままの姿だが、心穏やかでない時は長く伸び、何本もの筋に枝分かれするというのだ。あまりにも長く伸びた毛は、桶の蓋を突きあげ、さらに伸び続けるほどだったのだ。」

悠「よく、ないです。」

神姫「それぐらいで許してあげるわよ?」

悠「頬骨を砕かれるぐらい怒らせるようなことしましたっけ?!」

摩耶「頬ボキアイドル」

悠「腹パンアイドルじゃないんだから」

千世子「神様が宿っている毛というだけあって、麻桶の毛には「山賊を懲らしめる」という善行をした伝説が残っているのだ。あるとき、山賊たちが奪った財宝を弥都波能売神社で山分けしていたのだ。すると、ご神体の毛が賊の人数と同じ数に分かれて伸び、山賊どもを絞め上げたのだ。山賊たちは翌日、追っ手に捕まっているのだ。」

亘理『腹パンアイドルっていうのもおかしいけどね』

悠「見せパンアイドルなら?」

神姫「……」
ゴッ!
悠「ぎっや!」

摩耶「予告通りの頬パン」

千世子「昔から日本では、髪には神秘的な力があると考えられていたのだ。特に女性の髪には神の霊が宿るとまで言われたのだ。女性にとって髪の毛は非常に大切なものであり、神社や祠に奉納するほど価値があるものだったのだ。」

神姫「砕けなかったわね」

悠「砕かないでください!」

亘理『首グリンってなってたけど』

悠「おれは首の可動域が広いんだよ」
グィングィン

摩耶「180度ぐらい回しても?」

悠「それは無理」

千世子「埼玉県にある毛長神社にも、女性の髪の毛がご神体として祀られていたのだ。かつて神社の裏手に6メートルもの長い髪を持った女性が住んでおり、この女性が人々の生活の向上を願って、髪を神社に奉納したのだ。だが残念なことに、この髪の毛はいつしか不浄なものとして水に流されてしまったというのだ。以上、麻桶の毛のじゅぎょーだったのだ。」