ー奇談ー學校へ行こう(2)2

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

千世子「お刺身美味しいのだ。」

神姫「そうね。」

サタン「これ何の魚なのだ?」

悠「イワシ」

ベヒモス「岩モス?」

摩耶「うん、違うよ」


【泥田坊】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。江戸時代の妖怪画家、鳥山石燕が描いた「泥田坊」は、水田に出現する妖怪なのだ。妖怪画集「今昔百鬼拾遺」の絵では、泥の田んぼから真っ黒な上半身を出した姿で描かれているのだ。頭ははげあがり、手の指は3本。目玉がひとつしかなく、服も来ていないのだ。泥田坊は夜な夜な田んぼに現れ「田を返せ~」と罵るというのだ。」

悠「泥んこプロレス……ふひひっ。」

神姫「わさび、どこに差し込まれたい?」

悠「喰わせるとかじゃ無くて差し込む?!」

神姫「おすすめは目か喉ね」

亘理『ひぇっ』

千世子「「今昔百鬼拾遺」には、泥田坊の生まれた由来も書かれているのだ。それによれば泥田坊の正体は、北国に住んでいた老人なのだ。老人は苦労して田んぼを開墾し、死ぬときにこの水田を息子に譲ったのだ。だがこの息子というのが酒飲みのろくでなしで、農家の仕事を放棄し、他人に田を売ってしまったのだ。失望した老人は泥田坊となり、毎晩田んぼに現れるようになったのだ。」

悠「わさびは勘弁してほしいな。」

神姫「じゃあ、刺すだけでもいいわよ」

悠「何かは刺されるんだ」

摩耶「ちなみに何刺すの?」

神姫「釘、ボールペン、ピンセット、爪切り」

千世子「ただし、泥田坊が誰に対して「田を返せ」といっているのかはわからないのだ。田んぼを勝ったものに「田を返せ」と訴えているのかもしれないし、農業を軽視する不詳の息子に「田(の土)を(ひっくり)返せ」……つまり「耕せ」としかり飛ばしているのかもしれないのだ。」

悠「ピンセットは先が曲がってるから嫌だなぁ」

摩耶「爪きりもニッパータイプだったらどえらいことになるよ」

悠「いま、ドエロイっていった?」

神姫「……」
ザクッ!
悠「ぎぃーー!」

千世子「泥田坊は、水田を大事にするという木窈君から生まれた妖怪だと考えられているが、妖怪研究科の多田克己氏は、泥田坊の正体について面白い説を唱えているのだ。実は泥田坊は、江戸の風俗街「吉原」が産んだ妖怪だというのだ。」

亘理『今、ボールペン太ももに突き立ってたよ…』

摩耶「悠くんだから平気だよ」

サタン「なかなかやるのだ」

悠「いや、いてぇよ!!」

神姫「先しか刺してないでしょ」

千世子「多田克己によれば「今昔百鬼拾遺」は、絵と解説に秘密のメッセージを隠した作品だというのだ。例えば泥田坊は「北国」の妖怪だが、江戸時代に北国といえば、江戸城の北にある吉原遊郭をさすのだ。そして湿地帯にある吉原は「吉原田圃」のあだ名で呼ばれ、田圃に現れる泥田坊と関係ありそうなのだ。「田を耕す」という行為も、詳しい言及は避けているが男女の性行の比喩と見做されるのだ。ならば泥田坊の「田を返せ」というセリフは、客引きの掛け声の比喩だと多田克己は指摘しているのだ。以上、泥田坊のじゅぎょーだったのだ。」
72/100ページ
スキ