ー奇談ー學校へ行こう(2)

ー廊下ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「ふっふっと汗が噴き出すなぁ」

摩耶「ホントに……汗?」

悠「なにそれ、怖い」

亘理『汗以外に流れ出るものは?』

悠「……リンパ液?」

神姫「気持ち悪い」

千世子「はい、じゅぎょーしますのだ。昭和初期の文献『小県郡民潭集』には、人を助けた送り犬(千疋狼)の話があるのだ。長野県の家へ嫁入りをした女性が妊娠し、出産のために里方へ帰ろうと山道を歩いていたところ、山の中で急に産気づいてしまい、産婆の助けも借りずに赤ん坊をたった一人で産み落としたのだ。」

悠「いきなり気持ち悪い言われた」

摩耶「まぁ、リンパ液を吹きだしてたらねぇ」

サタン「即刻病院いきなのだ。」

スキュラ「血が噴き出しているよりはマシじゃないですか?」

ベヒモス「血はすぐ固まるモス」

千世子「さすがに子供を産んだ直後に動くことはままならず、山中で産婦と赤ん坊は夜を迎えてしまうのだが、そこに送り犬が何匹も集まってきたのだ。産婦は食べられてしまうのではないかと恐れていたが、送り犬たちはそうではなく、産婦が他の狼などに襲われないよう、守るために集まっていたのだ。」

悠「一理あるな」

摩耶「僕は止まらなくなる派だけどね。わりとすぐに危険域にたっするよ」

悠「なんかスマン」

亘理『いや、すぐ固まったとしても血が出てちゃダメだよね?!』

神姫「悠は血が噴き出すほど元気になるのよ」

千世子「しばらくすると、数匹の送り犬が女の亭主の住む家へと向かい、亭主の着物をくわえて、女のいるところまで引っ張ってきたのだ。そのおかげで女と赤ん坊は亭主に発見され、無事に家へとかえれたのだ。亭主は送り犬たちに深く感謝し、赤飯をこしらえて送り犬たちに振る舞ったというのだ。」

悠「そんなこと…………ねぇよ!」

サタン「間があったのだ」

摩耶「悠君は最後の最後になるほど輝くんだよ。つまり死ぬ寸前が一番カッコいい」

悠「……」

摩耶「死ぬ寸前が一番カッコいい」

千世子「犬や狼についてこられたときに、それが危険な犬なのカ親切な犬なのかを判断するのは難しいのだ。各地の民話には千疋狼の害を避けたり、千疋狼を味方につける為の特別な方法がいくつか伝わっているのだ。」

悠「どうしよう、二回いわれた」

神姫「死ぬ寸前まで刺す?」
スッ

悠「刺されたくないし、太めの針金で死ぬ寸前まで刺されるって何?!」

サタン「昔の魔女裁判みいなのだ」

ベヒモス「どういう裁判モス?」

千世子「まずは害を避ける方法と対処から紹介していくのだ。千疋狼につけられているときは、転んではいけないのだ。転ぶと千疋狼は襲い掛かってくるからなのだ。だが彼らは座った人を襲うことはないので、転んだ時はすぐに「どっこいしょ」という、タバコを吸うなど「座ったふり」をすれば、千疋狼は「この人間は転んだのではなく、休憩のために座ったのだ」と考え、その人間を襲うことはないというのだ。」

サタン「魔女と疑われた女性が全身針で刺されるのだ。そして血が出なかったら魔女と認定されるのだ。」

悠「ちなみに人間には刺しても血が出ない箇所、いわゆるツボ的な部分があるから何百回、何千回と続ければ絶対に魔女判定できるという出来判定なのだ。」

亘理『酷い』

悠「魔女判定されたら更に死刑だからな。完全な出来レース。」

亘理『さらに酷い……』

千世子「千疋狼が嫌うものを持ち歩くのも効果的なのだ。この妖怪は、火縄銃に点火するためのロープ『火縄』が燃える匂いが苦手なので、火のついた火縄を持ったものの近くには寄ってこないのだ。また、千疋狼は自分を恐れたり、自分に敵対するものに襲い掛かるのだ。堂々とした態度で道を歩き、千疋狼を刺激しなければ、襲われることはないというのだ。」

摩耶「昔はやりたい放題だよねホント」

悠「怖いよなぁ」

神姫「悠もやりたい放題でしょ」

悠「ソンナコトナイヨ」

神姫「チッ」

千世子「次に千疋狼を味方につける方法を紹介するのだ。江戸時代の食べ物図鑑「本朝食鑑」には、千疋狼に襲われたときに命乞いすれば、千疋狼は人間を襲うのをやめ、逆に獣の害から守ってくれるという供述があるのだ。」

悠「シクシク、シクシク」

亘理『今さら舌打ちくらいで泣かなくても……』

悠「シクシク、四九36…」

亘理『……』

神姫「はい、先のとがった長い針金」

千世子「千疋狼を連れたまま無事家に到着した時には、お礼の品をお供えするのが良いというのだ。千疋狼は塩、小豆飯、草鞋の片方などを好むので、これらの物を贈れば、彼らは満足して帰っていくというのだ。また、千疋狼が山に帰るときには「ご苦労さん」とねぎらいの言葉をかけてあげるとさらに良いのだ。以上、千疋狼のじゅぎょーだったのだ。」
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