ー奇談ー學校へ行こう(2)

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「しかし、最近は暑くなってきたな。まだ五月の半ばなのに」

摩耶「今年の夏も暑いかな」

悠「暑いなら脱げばいいよね!」

神姫「皮でも剥いでほしいの?」

悠「おれの皮膚には金のありかをしめす入れ墨は彫られていません。」

【蓑虫】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。昔の日本人は雨が降ると、藁や茅などでできたマントのような蓑と頭にかぶる編み笠の二つを組み合わせて雨具にしていたのだ。蓑虫は、この蓑につく妖怪なのだ。」

サタン「人皮装丁本つくるのだ?」

悠「悪趣味な魔術書つくるのもやめようぜ」

摩耶「あはっ♪」

悠「どうしよう、すっげぇいい笑顔してる」

亘理『悠ちゃんもスマイルスマイル』

悠「ふひひっ」

千世子「ミノムシが出るのは、雨の日の夜だというのだ。世持を歩いていると、羽織っている美濃にぽつぽつと蛍のような小さな火がくっつくことがあるのだ。このミノムシは複数の人間につくこともあれば、一人にだけついたり、疲れた本人以外に見えないこともあるのだ。これらの状態を「蓑虫に憑かれた」というのだ。」

神姫「不愉快な笑い」

悠「えー超笑顔だったのに」

摩耶「黙って笑ってればいいんだよ」

悠「……にこっ」

亘理『きゅん!』

サタン「きゅん!」

千世子「蓑虫に憑かれた場合、決して手で払ってはいけないのだ。手で払われた蓑虫はどんどん増え、やがて払った人間の体を包んでしまうからなのだ。」

悠「だめだな。やっぱりおれはトークありきでないと」

摩耶「軽く二人落ちてたけどね」

神姫「トークを加えたらさらに株が落ちるわよ」

悠「よーし!……ん?」

神姫「なに?」

千世子「もし蓑虫にとり憑かれたとしても、慌てることなく対処すれば簡単に追い払えるのだ。方法は地方によって異なるが、大まかに「ミノムシ以外の火をともす」「じっとしている」「静かに蓑を脱ぎ捨てる」の3つの方法が伝わっているのだ。もっとも、蓑虫の炎はいうなれば幻覚のようなもので、触っても熱くなく火傷など怪我を負うこともないため、放っておいても実害はないというのだ。」

悠「んっ、んー、逆に神姫の笑顔を見てみたいな」

神姫「私だって笑うわよ、笑う必要がある場面ならね。」

悠「作り笑顔宣言ですよね」

摩耶「まぁ、笑顔は笑顔だね。」

亘理『摩耶君は常に笑顔だけどね』

千世子「また、おなじみの虫という名前でも、地方によっても全く違うものを指すのだ。新潟の中央部、三条市に伝わるミノムシは、蓑から滴り落ちる雨滴が火の粉のように見える現象のことを指し、秋田県の伝承では、寒い日の蓑につくキラキラと光るもののことを指すのだ。これらもまた、いくら払っても尽きることがないというのだ。」

摩耶「にこにこ♪」

悠「にこにこ♪」

亘理『なんだろ、悠ちゃんの笑顔が胡散臭い』

悠「なんでやねん!」

ベヒモス「いやらしいこと考えてそうモス」

千世子「蓑虫のように「夜道を歩いていると、目の前に火の玉が現れる」怪現象は全国各地に伝えられているのだ。狐火や、人間のおんねんなどが炎の形になった「鬼火」などはその代表的な例だが、これらの怪異と同様に、蓑虫も多くの地方で、キツネやタヌキ、イタチのいたずらとされているのだ。」

悠「考えてないとは言わないがそればっかりじゃないよっ!」

亘理『ちなみに摩耶くんは何考えて笑ってるの?』

摩耶「えっ」

亘理『えっ?』

摩耶「……えへっ」

悠「やめとけ、SAN値下がるぞ」

千世子「また琵琶湖に現れる、ミノムシによく似た「蓑火」という妖怪の正体は、溺死した人の怨念だといわれているのだ。ただし、科学で溶解を否定する妖怪博士「井上円了」は、これは妖怪ではなく、動物性の死骸が腐敗することで発生した天然ガスが、空気中で自然発火する現象だとしているのだ。以上、蓑虫のじゅぎょーだったのだ。」
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