ー奇談ー學校へ行こう10

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

千世子「ひな祭りなのだ」

悠「そうだな。女の子同士でイチイチしていいよ。」

千世子「あんちんのひな祭りはなんかおかしいのだ。」

摩耶「おかしいのは悠君の頭だよ」

神姫「その通りね。」

悠「ふぁーーー!」

【化け蟹】

千世子「じゅぎょーしますなのだ。妖怪になる動物の代表格といえば狸や狐だが、実は「蟹』も、妖怪化する動物のひとつなのだ。蟹の妖怪変化は、化け蟹、大蟹、カニの化け物、蟹坊主などと呼ばれ、東北地方から北陸地方、関東地方の西側まで、幅広く伝えられているのだ。」

サタン「ひなまつりってなんの祭りなのだ?」

ベヒモス「雛っていことは小鳥のまつりじゃないモス?」

悠「ひな祭り文化がなかった件」

神姫「まぁ、ないでしょうね。」

スキュラ「人形流しの一種でしょうか?」

悠「なぜ、人形流しは知っている。」

千世子「妖怪研究科の村上健司によると、こうした化け蟹の伝承は「蟹山伏」という物語が元ネタになっているというのだ。「蟹山伏」は日本の古典芸能である「狂言」の演目のひとつで、山中で修行する僧侶「山伏」とその従者が、蟹の妖怪になぞかけをされるというものなのだ。この「蟹山伏」が上演されたことで、なぞかけをする蟹の妖怪の伝承が各地で生まれたのではないか、というのが村上の主張なのだ。」

摩耶「女の子が女子トークさく裂ししながらちらし寿司とか食べる日だよ」

神姫「間違ってはないけど正しくはないわね。」

サタン「女子トーク……?」

悠「つまり猥談だ」

神姫「弾針剄」
チュドン!

千世子「舞台芸能から生まれる妖怪伝承には、鬼女紅葉の伝承などもあるのだ。妖怪伝承が劇の脚本になるのではなく、劇の脚本が妖怪伝承を産むこともあるのだ。」

摩耶「詳しいことは後でモノリスに聞くといいよ」

亘理『何やかんやは冥ちゃんが用意してくれるしね。』

雨「まぁ、私らがひな祭りってのもおかしいけどな」

悠「動く日本人形みたいな格好の癖に」

雨「やかましい!」

千世子「化け蟹が登場する物語は、多くの場合「長年住職がいない寺があり、旅の僧侶がそこに泊まる。化け蟹はその僧侶になぞかけをするが、回答された退治され正体を暴かれる」という大筋で伝わっているのだ。それら多くの伝承の中でも、山梨県の蟹沢山にある「長源寺」に伝わる物語はそれの典型例なのだ。」

摩耶「動く人形といえば……恋ちゃんじゃない?」

悠「ああ、あれはロリ婆だ」

神姫「座敷童要素皆無ね。」

亘理『婆は酷いと思う』

悠「そうかなぁ、褒めたのに」

千世子「その昔、長源寺には化け物が出るといわれていて、新しい住職も次々に逃げ出してしまい、長らく住職不在の寺となっていたのだ。手入れをするものもなく、荒れ果てて締まった長源寺に、ある日旅の僧侶が訪れたのだ。僧侶は化物の噂を知りながら寺に宿泊したのだが、案の定その夜、僧侶の枕元に怪しげな僧侶が現れるのだ。」

亘理『どのあたりが褒めてるの?!』

悠「ロリ婆って褒め言葉じゃない?」

摩耶「属性であって褒め言葉ではないと思うよ」

サタン「我の属性は何なのだ?」

ベヒモス「魔王モス」

千世子「枕もとの怪しげな僧侶は「四手八足両眼天を指すはいかんに?」となぞかけをしてきたが、僧侶は慌てず「それは蟹だ」と叫び、用意していた仏具「独鈷杵」を怪しげな僧侶に突き刺したのだ。翌日、近くの洞窟で、腹に独鈷杵を刺された化け蟹が死んでいたのだ。この化け蟹は、甲羅だけで約3.6m四方もある巨大なものだったというのだ。」

悠「甘えん坊属性だろ」

サタン「誰が甘えん坊なのだ!!」

悠「サタン!」

サタン「なぬーー!」

亘理『がるるっ!』

千世子「長源寺では今でも、化け蟹が投げたという大きな石が残っているのだ。また、現在では失われているが、かつては退治された化け蟹の甲羅も保管されていたとのことなのだ。ただしこの甲羅は30cm四方程度で、伝承よりは小さなものだったというのだ。以上、化け蟹のじゅぎょーだったのだ。」
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