ー特別編ーブラックアウトの夜
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ふたつの豊かな国とふたつのまずしい国。
あたしはサヤーが身体を売って稼いだお金を受けとりつりを返した。
冷蔵庫からふた袋分もたまった傷もののフルーツをとりだし、店の奥のテレビで夕方のニュースを見ている母に声をかけた。
「ちょっと配達に行ってくるからお店頼むよー。」
母はあたしを見てからサヤーを見た。
うなずくとテレビに視線をもどしていう。
「そこのメロンもいっちまってるから、もっていきな。」
サヤーはあたしの母に向かって合掌した。
あたしはもちろんそんなことはしなかったけれど、この挨拶を日本中で流行らせるのも悪くない気がした。
そうすれば、同じ不景気だってグッとしのぎしやすくなるというものだ。
サヤーと肩を並べて西一番街を歩いた。
あたしの胸より少し下くらいまでしかないちびの男の子にいう。
「ちょっと話したいんだけどー……いいかな?」
サヤーはうわ目づかいでおどおどとあたしを見ると、黙ってうなずいた。
あたしたちが向かったのは、みずき通りをわたり、池袋駅西口のロータリーを越えたさきにある西口公園だった。
そういうとなんだか距離があるみたいだけど、うちのお店からは三、四分だ。
夏色に輝く夕日が斜めに落ちる広場を仕事帰りの会社員たちが通りすぎていった。
みな自分の歩く数歩先だけを見つめて、周囲をとりまく物など見ようとはしなかった。
サヤーとあたしは並んで木陰になっているスチールパイプのベンチに腰を下ろした。
あたしは気になっていることを最初に聞いた。
「アナタ、中学いってないの?」
サヤーはうつむいて広場の敷石を見つめていた。
「半分いってる。」
「半分かー。義務教育は毎日いかなきゃダメなんだぞー。」
サヤーはあたしを見上げて、にこりと笑った。
駅前を外国人排斥を雷のような音量で叫ぶ右翼の街宣車がゆっくりと流していた。
「うちのクラスの先生と同じこというね、リッカさん」
あたしはなんといっていいかわからないまま返事をした。
なんだかぶっきらぼうな調子になってしまう。
「それで残り半分は、どこかの男を相手にしてるんだ。」
サヤーはベンチに座ったまま、どんどん縮んでいくようだった。
背が丸まり、肩が落ち、手のひらをギュッとにぎりしめる。
男の子は淡々といった。
「仕事なんだ。しかたないよ。ぼくは九歳からやってるから、もう慣れてる。ときどき怖いこともあるけど、平気だよ。うちのデリヘルはそんな無茶なことはしないし。」
しばらくなにもいえなかった。
あたしたちのあいだを夏の生ぬるく吹いていくだけだ。
あたしは夕空に映える灰色のネオンサインをじっと見ていた。
サヤーが目をあげて、公園を垂直にとりまくビルの壁を見上げた。
あたしはサヤーが身体を売って稼いだお金を受けとりつりを返した。
冷蔵庫からふた袋分もたまった傷もののフルーツをとりだし、店の奥のテレビで夕方のニュースを見ている母に声をかけた。
「ちょっと配達に行ってくるからお店頼むよー。」
母はあたしを見てからサヤーを見た。
うなずくとテレビに視線をもどしていう。
「そこのメロンもいっちまってるから、もっていきな。」
サヤーはあたしの母に向かって合掌した。
あたしはもちろんそんなことはしなかったけれど、この挨拶を日本中で流行らせるのも悪くない気がした。
そうすれば、同じ不景気だってグッとしのぎしやすくなるというものだ。
サヤーと肩を並べて西一番街を歩いた。
あたしの胸より少し下くらいまでしかないちびの男の子にいう。
「ちょっと話したいんだけどー……いいかな?」
サヤーはうわ目づかいでおどおどとあたしを見ると、黙ってうなずいた。
あたしたちが向かったのは、みずき通りをわたり、池袋駅西口のロータリーを越えたさきにある西口公園だった。
そういうとなんだか距離があるみたいだけど、うちのお店からは三、四分だ。
夏色に輝く夕日が斜めに落ちる広場を仕事帰りの会社員たちが通りすぎていった。
みな自分の歩く数歩先だけを見つめて、周囲をとりまく物など見ようとはしなかった。
サヤーとあたしは並んで木陰になっているスチールパイプのベンチに腰を下ろした。
あたしは気になっていることを最初に聞いた。
「アナタ、中学いってないの?」
サヤーはうつむいて広場の敷石を見つめていた。
「半分いってる。」
「半分かー。義務教育は毎日いかなきゃダメなんだぞー。」
サヤーはあたしを見上げて、にこりと笑った。
駅前を外国人排斥を雷のような音量で叫ぶ右翼の街宣車がゆっくりと流していた。
「うちのクラスの先生と同じこというね、リッカさん」
あたしはなんといっていいかわからないまま返事をした。
なんだかぶっきらぼうな調子になってしまう。
「それで残り半分は、どこかの男を相手にしてるんだ。」
サヤーはベンチに座ったまま、どんどん縮んでいくようだった。
背が丸まり、肩が落ち、手のひらをギュッとにぎりしめる。
男の子は淡々といった。
「仕事なんだ。しかたないよ。ぼくは九歳からやってるから、もう慣れてる。ときどき怖いこともあるけど、平気だよ。うちのデリヘルはそんな無茶なことはしないし。」
しばらくなにもいえなかった。
あたしたちのあいだを夏の生ぬるく吹いていくだけだ。
あたしは夕空に映える灰色のネオンサインをじっと見ていた。
サヤーが目をあげて、公園を垂直にとりまくビルの壁を見上げた。