ー特別編ーブラックアウトの夜
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腐って茶色に変色した部分はポンポンと段ボール箱のなかに手首だけで投げ込んだ。
仕上げで割り箸の束に手を伸ばした瞬間、そのガキがあたしの隣にいきなり座り込んだ。
さっきの自分じゃないけどなんだか空から降りてきたようだった。
浅黒い顔にほとんど真ん丸の目。頬も丸く、ひどくやわらかそう。
どこかのディスカウントショップで一枚三百八十円で売っていそうな白い半袖のシャツに、中学校の黒い制服ズボン。
頭が弱いんじゃないかというくらい無防備にニコニコとあたしに笑いかけてくる。
小鳥のような声でいった。
「あの、その箱のなかのパイナップル捨てるんですよね。」
日本語の発音がおかしかった。
東南アジアのどこかとあたしは思った。
ショウジョウバエのたかり始めた果実の残骸に目を落とす。
「そうよ。」
男の子は恥ずかしそうにいった。
「それ、もらえないでしょうか。うちの妹たちに食べさせてあげたいんだけど」
あたしは頬を赤くして笑顔をつくり続ける少年を見た。
靴は例のスウッシュマークがちょっと歪んだナイキのパチモノスニーカー。
「こんなのでいいなら、もっていっていいよ。」
少年は胸の前で両手をあわせて、軽く頭をさげた。
金色に塗られた仏像にでもなった気分ね。
「どうも、ありがとう。名前はなんていうんですか?」
あたしは自分の名をいった。
少年は口のなかで何度か繰り返す。
「今度お寺にいったら、リッカさんのこともお願いしておきます。ありがとう。」
「あ、アナタの名前……行っちゃった。」
男の子は角が果汁で黒く濡れた段ボールを脇に抱えると、自分の名前はいわずに去っていった。
豊島区の人工は約二十五万人、そのうち十人に一人は外国人である。
ここは夏の池袋なのだ。
もう二度と口を聞くことはないだろうけど、ちょっと変わった異邦のガキとの出会いなんてありふれている。
予想に反して少年は次の日もうちの店にやってきた。前日と同じ格好で恥ずかしそうに店先で笑っていたのだ。
学校はどうしているのかしら…。
あたしはあきれていった。
「今日はどうしたの?」
男の子はまたあたしに両手をあわせた。
「うちのお母さんがお礼をいってくれといってました。」
なんて律儀な…あたしはヒラヒラと手を振った。
「そんなこと別にいいのに。」
「いえ、あの…ついでに…」
つま先のほころんだスニーカーを見つめて言いにくそうにしている。
「どしたの?」
「……今度はバナナでももらえないかって。ごめんなさい、あの、うちはお金ないんです」
あまりに正直なひとことにあたしは笑ってしまった。
店先を見回せば、黒死病にかかって瀕死状態のフィリピンバナナが、一山五十円でザルに積んである。
仕上げで割り箸の束に手を伸ばした瞬間、そのガキがあたしの隣にいきなり座り込んだ。
さっきの自分じゃないけどなんだか空から降りてきたようだった。
浅黒い顔にほとんど真ん丸の目。頬も丸く、ひどくやわらかそう。
どこかのディスカウントショップで一枚三百八十円で売っていそうな白い半袖のシャツに、中学校の黒い制服ズボン。
頭が弱いんじゃないかというくらい無防備にニコニコとあたしに笑いかけてくる。
小鳥のような声でいった。
「あの、その箱のなかのパイナップル捨てるんですよね。」
日本語の発音がおかしかった。
東南アジアのどこかとあたしは思った。
ショウジョウバエのたかり始めた果実の残骸に目を落とす。
「そうよ。」
男の子は恥ずかしそうにいった。
「それ、もらえないでしょうか。うちの妹たちに食べさせてあげたいんだけど」
あたしは頬を赤くして笑顔をつくり続ける少年を見た。
靴は例のスウッシュマークがちょっと歪んだナイキのパチモノスニーカー。
「こんなのでいいなら、もっていっていいよ。」
少年は胸の前で両手をあわせて、軽く頭をさげた。
金色に塗られた仏像にでもなった気分ね。
「どうも、ありがとう。名前はなんていうんですか?」
あたしは自分の名をいった。
少年は口のなかで何度か繰り返す。
「今度お寺にいったら、リッカさんのこともお願いしておきます。ありがとう。」
「あ、アナタの名前……行っちゃった。」
男の子は角が果汁で黒く濡れた段ボールを脇に抱えると、自分の名前はいわずに去っていった。
豊島区の人工は約二十五万人、そのうち十人に一人は外国人である。
ここは夏の池袋なのだ。
もう二度と口を聞くことはないだろうけど、ちょっと変わった異邦のガキとの出会いなんてありふれている。
予想に反して少年は次の日もうちの店にやってきた。前日と同じ格好で恥ずかしそうに店先で笑っていたのだ。
学校はどうしているのかしら…。
あたしはあきれていった。
「今日はどうしたの?」
男の子はまたあたしに両手をあわせた。
「うちのお母さんがお礼をいってくれといってました。」
なんて律儀な…あたしはヒラヒラと手を振った。
「そんなこと別にいいのに。」
「いえ、あの…ついでに…」
つま先のほころんだスニーカーを見つめて言いにくそうにしている。
「どしたの?」
「……今度はバナナでももらえないかって。ごめんなさい、あの、うちはお金ないんです」
あまりに正直なひとことにあたしは笑ってしまった。
店先を見回せば、黒死病にかかって瀕死状態のフィリピンバナナが、一山五十円でザルに積んである。