「なにやってんだ。店の裏で締めてこいといっただろ。」

手下はさっと頭を下げていった。

「すみません。こいつが逃げようとしたもんで……。」

銀司は何も言わずに手下のところに歩いていき、いきなり頬を張り飛ばした。首にタトゥーを入れた手下は二、三歩よろめいて踏みとどまる。

「いいわけすんじゃねえ。なんだ、拳二、うちの店に何か用か!」

「このあたりは三業地でも、風俗街でもない。普通の堅気の人達が店を出して、商売している街だ。お前ももう少し気を使ったら、どうなんだ。こんな騒ぎが起こるようじゃあ、みなさん安心して商売できないだろう。」

声は低いがドスが効いている。若いころの高倉健みたいになってきた。

「なにきれいごと抜かしてるんだ。金儲けにきれいも汚いもあるか。俺になめた口をきくな。」

銀司はさしてできる男とは思えなかった。あたりを囲む人だかりの空気が読めていない。今だって誰かが警察に通報すれば、池袋駅前の交番から一分と絶たずに巡査が飛んでくるだろう。

「今日の件は、うちのおやじに報告しておく。お前の所のトップにも話がいくだろう。覚悟しておけ。」

羽沢組系一ノ瀬組の一ノ瀬組長の顔を思いだした。大前のおっさんよりも仕事ができそうな冷たい会社員面。ジャックナイフの顔が急に日陰になったようだった。誰も怖くない振りをしても、組織の上は怖いのだろう。張り倒した手下に行った。

「うるせえ、そいつを連れて、店に戻れ。今日はもうシャッター閉めとけ。」

客の男が拳二に叫んだ。

「おい、アンタ、誰だか知らないが助けてくれ!」

拳二は見知らぬ男を綺麗に無視した。助けるような義理はない。客が店の中に連れ戻されると、銀司はいった。

「拳二、お前とはいつでもやってやるぞ。」

こちらは拳二の他に四人、銀司の横には別な手下がひとりいるだけだった。いつでもやるというやつで、そのときやるやつはいない。舐められないようにあたりをねめつけるようににらんで、田舎役者がタピオカミルティーの店でなくなった店に戻っていく。

大前のおっさんが震えていた。

「池袋はほんとは怖い街だったんですね。」

誤解だといおうとしたが浩一の顔が浮かんで、父親には何も言えなくなった。高校生を銀司の餌食にさせるわけにはいかない。ようやくおれのなかで、何かが動きだす手ごたえがあった。

店に戻ると、おれは拳二の目を盗んで、大前のおっさんに声をかけた。