ー特別篇ータピオカミルクティードリーム
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「瓦谷さん、「夏水堂」の商標権は登録していますでしょうか。もし、まだのようでしたら、私が知り合いに頼んで、すぐに手続きを取りますが。」
拳二はよく事情が呑み込めないようだった。
『そうすると、どうなるんだ?』
「商標権の侵害で、「陽来軒」の営業を停止できるかもしれません。」
仕事を終えた会社員が河口に流れる泡沫(うたかた)のように駅に向かっていた。拳二は低くため息をついた。
『大前さんの世界では、そういう風に戦うんだろうな。商標権なんて、うちの店はとってない。とるつもりもない。そんな根性なしの半グレみたいなことできるか。銀司の件は、こちらでなんとかする。おっさんはおかしな気は使わなくていいぞ。』
大前は直立不動のまま言った。
「はい、わかりました。瓦谷さん。今日の売り上げは今のところ四割落ちです。頑張っているんですが、残念です。」
一日でそれだけ客を銀司に取られているのだ。拳二の声の様子が少し変わった。
『わかった。なんとか手を打とう……それからな、俺ぁのことは拳二でいい。』
通話は切れた。大前のおっさんはスマートフォンをおれに返す。
「驚いたな。拳二がアンタに、拳二と呼んでいいといったな。アイツは自分が認めた人間以外には、絶対呼び捨てでは呼ばせないんだ。」
おれと崇のような古くからの友人、あとは組内でも上の人間の何人か。羽沢組の血の気の多い若衆が拳二と呼んだ時には、ぼこぼこにされていた。
「いえ、わたしなんかはとてもそんな者じゃありません。」
どこまでも謙虚なおっさん。
夏休み前半のその日から、夏水堂と陽来軒のタピオカ戦争が始まった。
池袋の路上で繰り広げられる羽沢組と京極会のクールな代理戦争である。いや、向こうの世界も変わったものだ。かつてはシマの奪い合いだったのが、今ではタピオカの増量合戦だ。
拳二も翌日から銀司の店に対抗して、夏休みのスペシャルプライスということで、定価を百五十円引き下げた。来客数はすぐに回復したが、当然売り上げは減少した。大前のおっさんは定時に会社を退社すると、毎日池袋にやってくるようになった。シフトが組まれていないときには、おれがコピーを書いたチラシをもって駅前に行く。
狙い目は若い女が集まっている西武デパートやPARCOの正面だ。おれもうちの茶屋が暇なときには、いっしょにチラシを配ったりした。拳二に時給の請求はしない。おれの勝手なボランティアだ。おれには聞かなかったけど、大前のおっさんもチラシの配布に関してはバイト代の請求はしていなかったんじゃないだろうか。
拳二はよく事情が呑み込めないようだった。
『そうすると、どうなるんだ?』
「商標権の侵害で、「陽来軒」の営業を停止できるかもしれません。」
仕事を終えた会社員が河口に流れる泡沫(うたかた)のように駅に向かっていた。拳二は低くため息をついた。
『大前さんの世界では、そういう風に戦うんだろうな。商標権なんて、うちの店はとってない。とるつもりもない。そんな根性なしの半グレみたいなことできるか。銀司の件は、こちらでなんとかする。おっさんはおかしな気は使わなくていいぞ。』
大前は直立不動のまま言った。
「はい、わかりました。瓦谷さん。今日の売り上げは今のところ四割落ちです。頑張っているんですが、残念です。」
一日でそれだけ客を銀司に取られているのだ。拳二の声の様子が少し変わった。
『わかった。なんとか手を打とう……それからな、俺ぁのことは拳二でいい。』
通話は切れた。大前のおっさんはスマートフォンをおれに返す。
「驚いたな。拳二がアンタに、拳二と呼んでいいといったな。アイツは自分が認めた人間以外には、絶対呼び捨てでは呼ばせないんだ。」
おれと崇のような古くからの友人、あとは組内でも上の人間の何人か。羽沢組の血の気の多い若衆が拳二と呼んだ時には、ぼこぼこにされていた。
「いえ、わたしなんかはとてもそんな者じゃありません。」
どこまでも謙虚なおっさん。
夏休み前半のその日から、夏水堂と陽来軒のタピオカ戦争が始まった。
池袋の路上で繰り広げられる羽沢組と京極会のクールな代理戦争である。いや、向こうの世界も変わったものだ。かつてはシマの奪い合いだったのが、今ではタピオカの増量合戦だ。
拳二も翌日から銀司の店に対抗して、夏休みのスペシャルプライスということで、定価を百五十円引き下げた。来客数はすぐに回復したが、当然売り上げは減少した。大前のおっさんは定時に会社を退社すると、毎日池袋にやってくるようになった。シフトが組まれていないときには、おれがコピーを書いたチラシをもって駅前に行く。
狙い目は若い女が集まっている西武デパートやPARCOの正面だ。おれもうちの茶屋が暇なときには、いっしょにチラシを配ったりした。拳二に時給の請求はしない。おれの勝手なボランティアだ。おれには聞かなかったけど、大前のおっさんもチラシの配布に関してはバイト代の請求はしていなかったんじゃないだろうか。