ー特別篇ータピオカミルクティードリーム
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「そこ、いつもかゆいの。」
「いえ、かゆくはないんですけど、癖なんですかね。つい境目を確かめるというか、どこまで広がっているのか、気になるというか。まあ、うちの息子のことはいいじゃないですか。」
「ああ。」
それはそうだ。よその家族のことに口を出すなど、余計なお世話に決まっている。
「それより瓦谷さんて、池袋では有名なコッチの人なんですね。」
頬にひと筋、人差し指で切れ込みを入れる仕草をする。
「本筋の人……か。」
「他のバイトの子たちにも聞きました。S・ウルフというのは、池袋のギャングですよね。ヨウジくんに聞いたら、流行の半グレみたいなものだと言ってました。言ってみれば、このタピオカの店は反社会勢力の巣窟です。」
ごしごしと金属のポットを磨き、大前のおっさんは頭の天辺の境界線を指でかいた。
「そりゃあわたしだって反社だったり、半グレだったりはよくないと思いますよ。お笑い芸人の人たちも振り込め詐欺のお金から、ギャラをもらったりしたらいけません。でも、みんな知らなかったんだし、引退しろなんて、そこまで攻め立てる必要がありますかね。あの人達にだって、妻や子供が居るのにねぇ。生活があるのにねえ。」
おっさんはカウンター越しにおれをちらりと見た。
「悠さんも半グレなんですかね。」
そんな直球の質問は初めてだった。
「知り合いや友達には沢山いるけど、おれは違うかな。」
「そうですか。でも、わたしにとって、半グレでも、そうでなくとも、悠さんは変わらない。瓦谷さんもそうです。渉外部長って偉いんですね。夏水堂をポケットマネーで二件も出店できるくらいですから。」
大前のおっさんは手を休めなかった。明かりを消したスタンドの前を、夏の酔っ払いが潮が引くように池袋駅に流れていく。
「瓦谷さんはわたしの今までの失敗より、これから何がしたいのか、きちんと見てくれた。そんな人はこの十年以上ひとりもいなかった。おまえは無能だと人にシールを張って攻め立てるだけです。みんな、まっとうなビジネスをしている人達なんですけどね。」
おれは黙ってうなずくだけだって。拳二に崇、刑事の柏や一之瀬組長。大勢のS・ウルフ。池袋の街でこれまで出会った人間の中に、ただ良い悪いだけの直線一本で切り分けられるような奴は一人も居なかった。このおれもな。
「良識あるまともな人達が私にあんなことをしたのに、反社で本筋のヤクザの瓦谷さんはこうして私を拾ってくれた。もうこれ以上、いいとも悪いともいいません。ただね、悠さん、わたしは瓦谷さんに何かあったら、全力で瓦谷さんの側に立ちますよ。そのときは会社や社会がどういおうと、わたしは構わない。やってやります。」
五十過ぎても意外と純なところが残ったおっさんだった。おれはいい気分で、大前のおっさんの話を聞きながら、すこし危ういところも感じていた。このおっさんは拳二やS・ウルフのいいところしか見ていない。崇も拳二も、人にはとても言えないことを数々してきている。それはおれも同じだ。東証一部上場企業で働いているのでは、そんな経験はまず耳にすることさえないはずだ。
「大前さんの気持ちはわかったよ。だけど、突撃するまえにおれにひと言だけ声をかけてくれ。今夜はおれも帰るよ。また来週な。」
「いえ、かゆくはないんですけど、癖なんですかね。つい境目を確かめるというか、どこまで広がっているのか、気になるというか。まあ、うちの息子のことはいいじゃないですか。」
「ああ。」
それはそうだ。よその家族のことに口を出すなど、余計なお世話に決まっている。
「それより瓦谷さんて、池袋では有名なコッチの人なんですね。」
頬にひと筋、人差し指で切れ込みを入れる仕草をする。
「本筋の人……か。」
「他のバイトの子たちにも聞きました。S・ウルフというのは、池袋のギャングですよね。ヨウジくんに聞いたら、流行の半グレみたいなものだと言ってました。言ってみれば、このタピオカの店は反社会勢力の巣窟です。」
ごしごしと金属のポットを磨き、大前のおっさんは頭の天辺の境界線を指でかいた。
「そりゃあわたしだって反社だったり、半グレだったりはよくないと思いますよ。お笑い芸人の人たちも振り込め詐欺のお金から、ギャラをもらったりしたらいけません。でも、みんな知らなかったんだし、引退しろなんて、そこまで攻め立てる必要がありますかね。あの人達にだって、妻や子供が居るのにねぇ。生活があるのにねえ。」
おっさんはカウンター越しにおれをちらりと見た。
「悠さんも半グレなんですかね。」
そんな直球の質問は初めてだった。
「知り合いや友達には沢山いるけど、おれは違うかな。」
「そうですか。でも、わたしにとって、半グレでも、そうでなくとも、悠さんは変わらない。瓦谷さんもそうです。渉外部長って偉いんですね。夏水堂をポケットマネーで二件も出店できるくらいですから。」
大前のおっさんは手を休めなかった。明かりを消したスタンドの前を、夏の酔っ払いが潮が引くように池袋駅に流れていく。
「瓦谷さんはわたしの今までの失敗より、これから何がしたいのか、きちんと見てくれた。そんな人はこの十年以上ひとりもいなかった。おまえは無能だと人にシールを張って攻め立てるだけです。みんな、まっとうなビジネスをしている人達なんですけどね。」
おれは黙ってうなずくだけだって。拳二に崇、刑事の柏や一之瀬組長。大勢のS・ウルフ。池袋の街でこれまで出会った人間の中に、ただ良い悪いだけの直線一本で切り分けられるような奴は一人も居なかった。このおれもな。
「良識あるまともな人達が私にあんなことをしたのに、反社で本筋のヤクザの瓦谷さんはこうして私を拾ってくれた。もうこれ以上、いいとも悪いともいいません。ただね、悠さん、わたしは瓦谷さんに何かあったら、全力で瓦谷さんの側に立ちますよ。そのときは会社や社会がどういおうと、わたしは構わない。やってやります。」
五十過ぎても意外と純なところが残ったおっさんだった。おれはいい気分で、大前のおっさんの話を聞きながら、すこし危ういところも感じていた。このおっさんは拳二やS・ウルフのいいところしか見ていない。崇も拳二も、人にはとても言えないことを数々してきている。それはおれも同じだ。東証一部上場企業で働いているのでは、そんな経験はまず耳にすることさえないはずだ。
「大前さんの気持ちはわかったよ。だけど、突撃するまえにおれにひと言だけ声をかけてくれ。今夜はおれも帰るよ。また来週な。」