ー特別篇ータピオカミルクティードリーム
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それから大前のおっさんは、夏水堂に週に四日やってくるようになった。
一日五時間として二十時間働いたとしても、税引き後の収入は二万ほど。たぶん時給なら、働かずに得られる追いだし部屋の八分の一くらいのものだろう。だが、おれもおっさんのおかげで、さして好きでもないタピオカミルクティーをのみにかようことになった。
誰かがものすごく楽しそうに働いているのを見るのが、なんともいえずに嬉しかったからだ。そいつはほかのバイトのイケメンS・ウルフにも伝染していった。理由はよく分からないけど、いい感じだナって思わせる店ってあるよな。おっさんの加入によって、夏水堂はただのオシャレなタピオカミルクティー専門店でなく、そういう不思議な魅力がある店になったのだ。
それはそうだよな。ゴミ出しをする、使用後の調理器具を洗う、店内の清掃をする。おっさんは女子高生相手にタピオカミルクティーを売るときだけでなく、終始楽しげだった。
その夜は浮き立つような金曜日だった。どこかで花火大会でもあったのか、妬けに浴衣を着た若い女が多かった。おれは拳二と店の前の歩道にキャンプ用の折り畳み椅子を出して、缶ビールをのんでいた。やっぱり夜はタピオカよりアルコールだよな。
店の前で大声が聞こえたのは、閉店間際十時近くだ。
「おやじ、なにやってんだよ!」
池袋は素人同士の喧嘩が昔から多かった。ときどき行き過ぎることもあるが、大抵は交番から警官が駆け付ける前に片がつく、メロンソーダの泡のように短い小競り合いだ。叫ぶ声が聞こえても、おれと拳二は無視してビールを飲んでいた。
だが夏水堂のまえから若い男は立ち去ろうとしない。白い半袖シャツにカラフルなチェックのパンツ。流行の制服だった。どうやら男子高校生のようだ。カウンターの向こうでは、大前のおっさんがうなだれている。
「なんなんだよ、おい」
拳二がそう言って、缶ビールを椅子のしたにおいて立ちあがった。こいつは店のオーナーだ、本筋の人間でもある。背中には拳の神という独自介錯の千手観音の墨がはいっている。そいつはオシャレなタトゥーなんかでは絶対になかった。
要するに男子高校生にけしかけるには、すこしぶっそうすぎる相手だ。
「おれがいってくる、拳二は座って見とけ。」
おれは白いシャツを着た高校生に話しかけた。やつは肩で息をして、一段高くなったカウンターの向こうにいる大前のおっさんをにらみつけている。
「なにかあったのかな、うちのバイトがやらかしたのか」
できるだけフレンドリーな声でそういった。大前のおっさんは首をちいさく横に振る。そっとしておいてくれという表情だった。少年が振り返った。おっさんそっくりの顔だ。
一日五時間として二十時間働いたとしても、税引き後の収入は二万ほど。たぶん時給なら、働かずに得られる追いだし部屋の八分の一くらいのものだろう。だが、おれもおっさんのおかげで、さして好きでもないタピオカミルクティーをのみにかようことになった。
誰かがものすごく楽しそうに働いているのを見るのが、なんともいえずに嬉しかったからだ。そいつはほかのバイトのイケメンS・ウルフにも伝染していった。理由はよく分からないけど、いい感じだナって思わせる店ってあるよな。おっさんの加入によって、夏水堂はただのオシャレなタピオカミルクティー専門店でなく、そういう不思議な魅力がある店になったのだ。
それはそうだよな。ゴミ出しをする、使用後の調理器具を洗う、店内の清掃をする。おっさんは女子高生相手にタピオカミルクティーを売るときだけでなく、終始楽しげだった。
その夜は浮き立つような金曜日だった。どこかで花火大会でもあったのか、妬けに浴衣を着た若い女が多かった。おれは拳二と店の前の歩道にキャンプ用の折り畳み椅子を出して、缶ビールをのんでいた。やっぱり夜はタピオカよりアルコールだよな。
店の前で大声が聞こえたのは、閉店間際十時近くだ。
「おやじ、なにやってんだよ!」
池袋は素人同士の喧嘩が昔から多かった。ときどき行き過ぎることもあるが、大抵は交番から警官が駆け付ける前に片がつく、メロンソーダの泡のように短い小競り合いだ。叫ぶ声が聞こえても、おれと拳二は無視してビールを飲んでいた。
だが夏水堂のまえから若い男は立ち去ろうとしない。白い半袖シャツにカラフルなチェックのパンツ。流行の制服だった。どうやら男子高校生のようだ。カウンターの向こうでは、大前のおっさんがうなだれている。
「なんなんだよ、おい」
拳二がそう言って、缶ビールを椅子のしたにおいて立ちあがった。こいつは店のオーナーだ、本筋の人間でもある。背中には拳の神という独自介錯の千手観音の墨がはいっている。そいつはオシャレなタトゥーなんかでは絶対になかった。
要するに男子高校生にけしかけるには、すこしぶっそうすぎる相手だ。
「おれがいってくる、拳二は座って見とけ。」
おれは白いシャツを着た高校生に話しかけた。やつは肩で息をして、一段高くなったカウンターの向こうにいる大前のおっさんをにらみつけている。
「なにかあったのかな、うちのバイトがやらかしたのか」
できるだけフレンドリーな声でそういった。大前のおっさんは首をちいさく横に振る。そっとしておいてくれという表情だった。少年が振り返った。おっさんそっくりの顔だ。