ー特別篇ータピオカミルクティードリーム
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おれはシニアマネージャーに恐るおそる質問した。
「あの、子供の学費とか住宅ローンに困ってるんですか?」
大前は気恥ずかし気に頭をかいた。髪がひな鳥の産毛のように立ちあがった。
「いえ、今のところはそれほどでもありません。これが仕事なんです。他の企業様の正社員やアルバイトに応募するのも、業務命令のうちなんです。」
正社員として大企業で働きながら、就職先を探すのが業務命令。拳二がおれを帰したくないわけだった。まあ、おれも意味不明なんだが。
あの、わたしは……っと、そこで言葉を切って、課長待遇が崖から飛び降りるように叫んだ。
「わたしは人材ステップアップ室にいます。」
「「……」」
拳二とおれは目を見合わせた。大企業がつける英名の部署というのは、ちんぷんかんぷん。だいたい課長と次長と部長のどれが一番偉いのか、おれにはよくわからない。
「ステップアップ室というのは、セカンドキャリアを探すための部署なんです。社内の人間は誰もそう呼びませんが、社外の人間からは「追いだし部屋」とか「廃品処理室」とか「モルグ」とか呼ばれてます。」
おっさんの顔が真っ赤だった。モルグは死体安置所のこと。自分が痴漢を働いたとか、末期がんだとか、一大告白をしたような顔をしている。おれは沈黙に耐えきれなくなって、何でもいいから口にした。
「会社の外で働き口を探すというのが、仕事なんですね。」
もうおまえは必要ない。給料はしばらく出してやるから、自分で次の仕事を見つけて来いというのが、会社の本音だろう。拳二が鋭い目をしていった。
「それなら、もっと自分の専門を生かせる会社があるだろ。うちは電気なんて一ワットも関係ないタピオカミルクティーのスタンドだぞ。なにより正社員じゃなく、アルバイトだ。それでもいいのか?」
「それで十分なんです。もう電機関係はこりごりです。日本のメーカーに明るい未来が開けているようにも思えません。もうすぐ七月も終わりますが、うちのステップアップ室にはノルマがあるんです。月に三件の採用面接を受ける。わたし今月まだ二社しか受けていませんもんで」
それを聞いて楽になった。おれはいった。
「それならよかったじゃないか。面接はちゃんと受けた。今月のノルマも達成だ。もう帰ったほうがいいよ。この店の客は若い子ばかりだし、失礼だけどアンタにはサービス業はむずかしいんじゃないかな」
人あたりは悪くないが、緊張してこちこちだし、なにより年齢的な問題があった。顔の方もイケメンという言葉から、百光年は離れている。
両手を上げて、大前が言った。
「いえ、ちょっと、ちょっと待ってください。わたしはこのお店で、本気で働いてみたいんです。夜十時までとありましたが、遅番で何とか雇ってもらえないでしょうか。わたしは毎日定時に帰れますから、六時には着替えて店に立てます。閉店の十時まで働けますし、残って清掃と後片付けもできます。」
薄くなった頭から、汗や額や頬に流れ落ちていく。滑稽だが、同時に必死だった。おれは無理だというつもりで、拳二に向けて首を振った。拳二はじっと真剣に追いだし部屋の中年男を見つめている。静かな声でいった。
「どうしてそんなに、うちで働きたいんだ?」
「あの、子供の学費とか住宅ローンに困ってるんですか?」
大前は気恥ずかし気に頭をかいた。髪がひな鳥の産毛のように立ちあがった。
「いえ、今のところはそれほどでもありません。これが仕事なんです。他の企業様の正社員やアルバイトに応募するのも、業務命令のうちなんです。」
正社員として大企業で働きながら、就職先を探すのが業務命令。拳二がおれを帰したくないわけだった。まあ、おれも意味不明なんだが。
あの、わたしは……っと、そこで言葉を切って、課長待遇が崖から飛び降りるように叫んだ。
「わたしは人材ステップアップ室にいます。」
「「……」」
拳二とおれは目を見合わせた。大企業がつける英名の部署というのは、ちんぷんかんぷん。だいたい課長と次長と部長のどれが一番偉いのか、おれにはよくわからない。
「ステップアップ室というのは、セカンドキャリアを探すための部署なんです。社内の人間は誰もそう呼びませんが、社外の人間からは「追いだし部屋」とか「廃品処理室」とか「モルグ」とか呼ばれてます。」
おっさんの顔が真っ赤だった。モルグは死体安置所のこと。自分が痴漢を働いたとか、末期がんだとか、一大告白をしたような顔をしている。おれは沈黙に耐えきれなくなって、何でもいいから口にした。
「会社の外で働き口を探すというのが、仕事なんですね。」
もうおまえは必要ない。給料はしばらく出してやるから、自分で次の仕事を見つけて来いというのが、会社の本音だろう。拳二が鋭い目をしていった。
「それなら、もっと自分の専門を生かせる会社があるだろ。うちは電気なんて一ワットも関係ないタピオカミルクティーのスタンドだぞ。なにより正社員じゃなく、アルバイトだ。それでもいいのか?」
「それで十分なんです。もう電機関係はこりごりです。日本のメーカーに明るい未来が開けているようにも思えません。もうすぐ七月も終わりますが、うちのステップアップ室にはノルマがあるんです。月に三件の採用面接を受ける。わたし今月まだ二社しか受けていませんもんで」
それを聞いて楽になった。おれはいった。
「それならよかったじゃないか。面接はちゃんと受けた。今月のノルマも達成だ。もう帰ったほうがいいよ。この店の客は若い子ばかりだし、失礼だけどアンタにはサービス業はむずかしいんじゃないかな」
人あたりは悪くないが、緊張してこちこちだし、なにより年齢的な問題があった。顔の方もイケメンという言葉から、百光年は離れている。
両手を上げて、大前が言った。
「いえ、ちょっと、ちょっと待ってください。わたしはこのお店で、本気で働いてみたいんです。夜十時までとありましたが、遅番で何とか雇ってもらえないでしょうか。わたしは毎日定時に帰れますから、六時には着替えて店に立てます。閉店の十時まで働けますし、残って清掃と後片付けもできます。」
薄くなった頭から、汗や額や頬に流れ落ちていく。滑稽だが、同時に必死だった。おれは無理だというつもりで、拳二に向けて首を振った。拳二はじっと真剣に追いだし部屋の中年男を見つめている。静かな声でいった。
「どうしてそんなに、うちで働きたいんだ?」