タピオカミルクティーを飲み終えて、そろそろ帰ろうかとしたときだった。さっきのS・ウルフがまたスタンドから駆けてきた。

「部長、すみません。アルバイトの応募がきたんですけど。」

東京は慢性的な人手不足だ。

やっときたか、といって拳二はガードレールから飛び降りた。

「まったく応募が来たのは二週間ぶりだ。分かった。こっちに連れてきてくれ。そいつはなかなかイケメンなのか?」

S・ウルフは困った顔をした。引きつった笑み。

「それは……ちょっと部長が判断してみてください。」

入れ替わりにやってきたのは、あの月見ハゲのおっさんだった。手にはタピオカミルクティーと履歴書を持っている。拳二が中年男を見て、深くため息をついた。

「うちで募集してるのは、若いイケメンだけなんだけどなぁ。」

拳二は差し出された履歴書を受け取った。

どうやらおれの出番は終わったようだ。関係もない他所のバイトの面接を観察する趣味はなかった。おれが空容器を片手にガードレールを離れようとしたら、拳二がいった。

「悠の意見を、ちょっと聞かせてくれ。こいつはおれにもよくわからない話だ。」

ショルダーバッグを斜めがけにした男は、直立不動で立っている。気合の入った声で小さく叫んだ。

「大前善次郎、五十三歳、シィア・シゥイ・タァンで働かせていただきたく、応募しにまいりました。」

拳二は困り顔でいう。

「だけど、アンタはもうハイライト電気の正社員じゃないか。役職も着いているんだよな、シニアマネージャーってどれくらい偉いんだかよくわからないけど」

大前のおっさんは年下の拳二にため口をきかれても平気なようだった。

「うちの会社は副業自由なんです。シニアマネージャーは課長待遇ですが、わたしには一人も部下が居ないのです。名前だけの役職で、実際には平社員と同じ扱いです。」

もともと丸いおっさんの頬が、少し赤く膨らんだように見えた。白い半そで開襟シャツの胸元は汗でびっしょり。

「「……」」

おれと拳二は黙って話の続きを聞いた。

「いや、平社員より下かもしれない。わたしはノートパソコンの一台も与えられていませんから。」

拳二が宇宙人にでも遭遇したような目で大前を見てから、おれに視線を流してきた。おれにも事情がまるでわからない。ハイライト電気といえば、昔ほどの威光はないが、今も東証一部上場の総合電機メーカーだ。売上高は兆を超える。冷蔵庫、洗濯機といった白物家電から、液晶テレビやHDDレコーダー、AIを組みこんだスピーカーやペット型ロボットまで、幅広い電気製品をそろえている。