ー特別篇ータピオカミルクティードリーム
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拳二がおれの肩をつついた。顎先を横にしゃくる。頭の天辺が目玉焼きのようにはげた中年男だった。五十歳をいくつか超えたあたり。太肉中背。肩からはななめに合成皮革の安物のショルダーバックを下げている。そのおっさんが盛んに拳二の店をスマホのカメラで撮影している。近寄ったり、離れたりしながら。グリーン大通りは池袋駅東口からまっすぐに延びるメインストリートで、ケヤキの木が植わった歩道の広さも十メートル近くある。おっさんはやけに熱心に写真を撮っていた。
「なんだ、あれ」
とおれ。
拳二が腕組みしたまま低い声でいった。
「商売敵の偵察かもな。この夏、池袋には七つものタピオカミルクティーの店がある。うちは流行ってる方だし。」
「茶屋の数より多そうだな。」
三人組の女子高生がやってきたかと思うと、すぐに行列ができた。タピオカミルクティーをもって、店の前で写真を撮る女もいる。頬にミルクティーを寄せて、夏水堂のロゴをいっしょにいれて一枚。インスタグラムにでもあげるのだろう。おれ達の見せびらかし消費に限りはない。
月見ハゲのおっさんがスマホをかまえたまま、おれたちの視線を遮った。スタンドが見えなくなる。拳二が低い声でドスを聞かせた。
「邪魔だ、おっさん。そこ、どけ」
中年男は雷撃でも受けたように、ちいさく跳ねた。おれ達に振り向くと臆病そうに会釈した。
「お邪魔して、すみません」
そのままつま先立ちでスタンドの前まで移動していく。きっと部活かなにかの帰りだろう、女子高生の行列は五、六メートルほどの長さに延びていた。おっさんは店に近づき壁の張り紙を撮影すると、その行列の最後に並んだ。
おれはその時見たのだ。おっさんが撮っていた張り紙の内容を。自給千五百円からスタートするアルバイト募集の手書きのポスターである。
やはりライバル店のスパイだろうか。おれは行列の黒一点の中年男に視線を注いだ。
「お待たせしました、部長。」
夏水堂から大学生のような男が走り出てきた。両手にタピオカミルクティー。爽やかな白シャツを袖まくりして着ている。おれと拳二の分だ。「部長」は一之瀬組渉外部長の略だろう。百人を超える組の十二、三番目あたりらしい。受け取っていった。
「ありがとな」
「いえ、部長と悠さんにのんでもらえるなんて、光栄っす」
やつはテニスシューズを鳴らして、スタンドに戻っていく。おれは拳二の店のタピオカミルクティーをひと口飲んだ。なかなかうまいアイスティー。タピオカをひとつ噛む。歯で噛み切れる薄甘い生ゴムみたい。
おれはカウンターのなかで注文を取るガキに目をやった。
「あいつも組みの人間なのか?」
「いや、崇に集めてもらったガキだ。イケメンを何人かまわしてもらった。タピオカの店の客は九割以上若い女だからな。イケメンには固定客がつく。バイト代はちゃんと払ってるさ。」
それでおれのことを知っていたのか。S・ウルフのメンバーだろう。おれたちはタピオカミルクティーをもって、ガードレールまで移動した。ケヤキの日陰で飲む冷えたミルクティーはなかなかの飲み物だ。おれにはタピオカパールがちょっと邪魔だったけれど。
それからおれと拳二は昔話しや最近の池袋について、どうでもいいことだけ選んで話した。お互いヤバそうな件については触れない。大人ってのは自然と気遣いの会話が出来るもんだよな。おれは一之瀬組のしのぎについて聞かなかったし、拳二はおれの女関係に触れなかった。まあ誰にだって話したくないことがあるもんだ。
「なんだ、あれ」
とおれ。
拳二が腕組みしたまま低い声でいった。
「商売敵の偵察かもな。この夏、池袋には七つものタピオカミルクティーの店がある。うちは流行ってる方だし。」
「茶屋の数より多そうだな。」
三人組の女子高生がやってきたかと思うと、すぐに行列ができた。タピオカミルクティーをもって、店の前で写真を撮る女もいる。頬にミルクティーを寄せて、夏水堂のロゴをいっしょにいれて一枚。インスタグラムにでもあげるのだろう。おれ達の見せびらかし消費に限りはない。
月見ハゲのおっさんがスマホをかまえたまま、おれたちの視線を遮った。スタンドが見えなくなる。拳二が低い声でドスを聞かせた。
「邪魔だ、おっさん。そこ、どけ」
中年男は雷撃でも受けたように、ちいさく跳ねた。おれ達に振り向くと臆病そうに会釈した。
「お邪魔して、すみません」
そのままつま先立ちでスタンドの前まで移動していく。きっと部活かなにかの帰りだろう、女子高生の行列は五、六メートルほどの長さに延びていた。おっさんは店に近づき壁の張り紙を撮影すると、その行列の最後に並んだ。
おれはその時見たのだ。おっさんが撮っていた張り紙の内容を。自給千五百円からスタートするアルバイト募集の手書きのポスターである。
やはりライバル店のスパイだろうか。おれは行列の黒一点の中年男に視線を注いだ。
「お待たせしました、部長。」
夏水堂から大学生のような男が走り出てきた。両手にタピオカミルクティー。爽やかな白シャツを袖まくりして着ている。おれと拳二の分だ。「部長」は一之瀬組渉外部長の略だろう。百人を超える組の十二、三番目あたりらしい。受け取っていった。
「ありがとな」
「いえ、部長と悠さんにのんでもらえるなんて、光栄っす」
やつはテニスシューズを鳴らして、スタンドに戻っていく。おれは拳二の店のタピオカミルクティーをひと口飲んだ。なかなかうまいアイスティー。タピオカをひとつ噛む。歯で噛み切れる薄甘い生ゴムみたい。
おれはカウンターのなかで注文を取るガキに目をやった。
「あいつも組みの人間なのか?」
「いや、崇に集めてもらったガキだ。イケメンを何人かまわしてもらった。タピオカの店の客は九割以上若い女だからな。イケメンには固定客がつく。バイト代はちゃんと払ってるさ。」
それでおれのことを知っていたのか。S・ウルフのメンバーだろう。おれたちはタピオカミルクティーをもって、ガードレールまで移動した。ケヤキの日陰で飲む冷えたミルクティーはなかなかの飲み物だ。おれにはタピオカパールがちょっと邪魔だったけれど。
それからおれと拳二は昔話しや最近の池袋について、どうでもいいことだけ選んで話した。お互いヤバそうな件については触れない。大人ってのは自然と気遣いの会話が出来るもんだよな。おれは一之瀬組のしのぎについて聞かなかったし、拳二はおれの女関係に触れなかった。まあ誰にだって話したくないことがあるもんだ。