タピオカミルクティーはアンタも知ってるよな。

黒いカエルの卵みたいなタピオカパールがどっさり沈んだ甘いミルクティーだ。英語ではブラックパールアイスティーともいう(いいネーミングだよな、「ゴールドベルク変奏曲」の第二十五変奏を思いだす)。80年代半ばに台湾で生まれた飲み物で、太いストローでタピオカと冷えた紅茶を一気にすするのだ。清涼感プラス、もちもちぬるぬるのタピオカの食感の組み合わせが斬新。このところ女子高生や女子大生に大人気で、街のあちこちに専門店ができている。あんたもリップクリーム並みに太いストローをくわえた若い女の集団を見かけたことはあるだろ。

一大ブームにあやかろうと、手の早い資本(普通の飲食系だけでなく、半グレや本グレなんか)も参入して町では大競争が展開中。無理もないよな。店はスタンド形式で狭くともOK、賃貸料は安上がりで、紅茶を作る簡素な設備があれば十分。本格的な厨房も料理人も必要ないのだ。原材料はタピオカと茶葉と牛乳と砂糖。どれも格安。国産小型車一台分の開店資金で、人件費を払っても月五、六十万は浮くんだから、笑いが止まらない。

おれの数少ない本職の友人も、去年から池袋駅東口と西口で一軒ずつスタンドを出している。夏水堂という店だから、見かけたら一杯のんでゃってくれ。まあ暴力団に利益提供したということで、バレたら問題になるかもしれないけどね。お笑い芸人の闇営業問題以降、反社会的勢力に世間はめちゃ厳しい。あいつらだって上納金だけでなく、生活費は必要なんだけれど。

今回のおれの話は池袋の熾烈なタピオカミルクティー戦争と、そこに紛れ込んだ気の毒な中高年サラリーマンの物語。おれは会社というところが、あんな風に長年働いてきた社員を扱うのだと初めて知った。切なくなるネタだから、あとで詳しく話すよ。そいつは残業代も福利厚生もない茶屋の店番でよかったと、おれが胸をなでおろしたくらいの悲惨さ。

おっさんが閉じ込められた部屋では、過去三人の自殺者が出たというから、どれだけひどい状況かは、アンタが勝手に想像してくれ。おれはいくつになっても、冬は北風のなか夏は灼熱に煽られ、和菓子を売っていくのだろう。

おれにはそれで十分だ。

ゴミだらけの汚れたストリートでも風が吹き寄せるだけで、窓のない地下の追いだし部屋より百万倍いいからな。



ｰタピオカミルクティードリームｰ