園田はおずおずと声をかけた。

「あの、僕はもう手術には反対しないから。」

スズカはマスクのしたで沈黙を守っている。

「でも、あの、ジェフさんと4D美容外科はよくないと思う。いっしょにもうすこし良心的な病院を探さないかな」

おれはそのとき気付いた。これがやつにとって、もっとも誠実な愛の形なんだろう。なんにしても恋ひとつするのもむずかしい時代だ。

「わたしのほうもごめんなさい。園田さんがそんな目にあっていたなんてしらなかった。」

おれが気をきかせていった。

「なあ、4Dには急用ができたと電話を入れて、このあとふたりで話し合いをしてみたらどうだ。」

マスク女とストーカー男がぎこちなくうなずいた。

「マルイの先にいい感じのカフェがあるぞ。おれは先に行くから。スズカさん、あとでメールするよ」

なんだかお見合いのコーディネーターみたい。おれは猛烈に暑い公園の蝉時雨のなかに、ふたりを残し先に帰った。いつまでも店番をサボっていると、ホントに久秀に乗っ取られるからな。




その後の話は、まあシンプルだ。

ジェフ鈴木は美容院をクビになった。オーナー店長に崇が話をしたらしい。ジェフをとるか、S・ウルフのアンタッチャブルに指定されるか、店長はジェフが裏でやっていた美容整形のアルバイトを知らなかった。やつは即日首。だが、やつのことだから、どこか別な街で同じことを繰り返すのだろう。

池袋4D美容外科への集団訴訟は始まったばかり。裁判よりあのアンチエイジング金満夫婦にショックだったのは、女性週刊誌に特集された顔面崩壊女たちの写真だろう。客足はぱたりと止まったらしい。

スズカと園田は何となく付き合っているようだ。今でもスズカは手術をあきらめていない。ふたりで評判のいい美容外科を探していると園田がいっていた。スズカの気持ちを理解するために、自分でもプチ整形を受けてみる気もあるそうだ。片方七千円の幅広平行の二重の手術である。

おれには女の顔の美醜はよくわからない。とくにすごくきれいだったり、かわいかったり、別な時にはぜんぜんいけてなかったり。人間だからいろいろな表情がある。美しいときも醜いときもある。

そいつは池袋の夏空と同じだ。真っ青な空に純白の積乱雲、それがほんの十分間でゲリラ豪雨の黒い空に一変する。夏の変わりやすい天気みたいに揺れるのが女の顔だろ。それをいつもきれいなままにしておくなんて、逆にもったいないよな。



きれいでも、きれいでなくても、変化の中に美しさはある。

生きものって、だいたいそういうもんだよな。





ｰ立教通り整形シンジゲート・完ｰ