近くにあるデニーズで、園田から話を聞いた。スズカははっきりといわなかったが、園田は何度か告白したことがあったという。

「毎回、空振りでした。スズカさんは今は恋愛よりも美容整形の方に夢中で、そんな余裕はないといってました。顎のことなんて全然気にすることない。何度もそういったんですけど、逆に嫌われてしまって。」

おれはアイスコーヒーを飲んで、うなずいた。

「わかるよ。コンプレックスはコンプレックスだってやつだろ。」

「ええ、そうです。褒められてもうれしくないって。彼女は仕事もできるし、周りのことも良く気がつくし、前の職場でも僕と違って正社員にも誘われていたんです。だけど、恋愛だけでなく仕事だって、コンプレックスのせいで断ってしまう。悪いのは何もかも……」

少しばかり長くて、右に曲がった顎のせいか。コンプレックスってなんだろうな。おれは自分にそんなものはないから、うまく想像ができなかった。すべての可能性を消し去ってしまう黒い十字架か。スズカと同じような顔をしたほとんどの女は幸福になっているのだろう。スズカには自分にはその権利はないと信じている。またため息をつきそうになる。おれは顔の半分が変形した。ストーカー男にいった。

「ところで園田さん、土曜日の午後は暇かな?」

金曜日の晩、おれはジェフ鈴木に電話を入れた。番号はスズカからきいた。話をしたのは五分ほど。おれがスズカの美容整形に絶対反対で、S・ウルフは4D美容外科に対して集団訴訟を起こす予定である。あんたのやっている悪行のからくりは、4Dからのキックバックも、風俗スカウトに女に売ることもすべてわかっている。

途中からジェフはおねえ言葉を使わなくなった。ビジネスゲイをかなぐり捨てて、おれわ脅しにかかったのだ。今度はS・ウルフではなく、自分には暴力団がついている。おまえをさらって、埋めるぞ。想像力のないやつの脅し文句は、なぜいつも同じなんだろう。

電話を切ってから、おれは自分の才能が錆ついてないことを確認し、満足した。

そいつは人を心底怒らせる才能だ。