ー特別篇ー立教通り整形シンジゲート
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ヘンって、どういう意味なんだ。わかんないよ。」
うっすらと涙を張った目で、スズカは笑った。いや、目元にやさしいしわが刻まれて、笑ったのだと分かった。自嘲の笑みだ。
「わたしは子供のころから、ずっとあごっていうあだ名だった。どうしてみんなみたいに普通の形をしていないのか、不思議で仕方なかった。マスクなんてしないで、普通にひと前で食事ができたり、笑える人はいいなあ。なぜ、こんな顔に生まれてしまったのかな。お父さんもお母さんも普通の顔なのに、わたしだけ変だなんて、きっと拾われた子に違いない。小学生のころから心の中で、そう思っていた。」
目の色が次第に深くなる。スズカが自分の中に潜っていくのを、なんとかしてとめなければならない。もどってこられなくなる深さが人の心にはある。
「ちょっと待った。あんの顔、ぜんぜん変じゃないよ。誰が見たって美人だろ。」
また目元が淋しげに笑った。
「悠さんって、園田さんに似てますね。同じ反応をした。園田さん言ってました。夜も昼も一生マスクをつけてていいから、付き合ってくれないかって。馬鹿みたいですよね。マスクフェチなのかな。」
「そんなはずないだろ。あんたが好きだったから、そういったに決まってる。」
いつの間にかストーカー男の弁護をしていた。なんだかわけのわからない流れ。
「おれはスズカさんは本気で綺麗だと思うよ。気にしてる顎だって、問題なんかないだろう。マスクする必要なんて、ぜんぜんないよ。」
ギラリと目の奥でなにかが光った。逆鱗。
「どんなに褒められても、なぐさめられても、コンプレックスはコンプレックスなんです。わたしの顔について話をするのは、今後一切やめてもらえませんか。自分から頼んでおいて生意気ですけど、この先続けられなくなる。」
おれもため息をつきたくなった。だが、このマスク美人を放っておくわけにもいかない。この街には心に穴が開いた人間ばかり専門でカモにする業者がいろいろといるんだ。
おれはスマホの画面を確認した。昼休みは残り二十分。いつまでも理解不能のコンプレックスにばかりかまってはいられない。そっちの方はトラブルシューターより、カウンセラーのほうが役に立ちそうだ。
別な切り口から攻めてみることにした。
「ジェフはなんていってた?」
安心の目。さすがに商売オカマで、女心を掴むのがうまい。
「顎が長いですって。右側に少し歪んでいる。えらも削ったほうがいい。すこししゃくれ気味かしら。そんなふうに。一生うじうじと悩むより、さっさと美容整形して、自信を取り戻さなくちゃ。そうじゃないと、その顎のせいでいつまでたっても自分の人生のスタートきれないじゃないの。そういってくれました。」
文句なしの商売人。コンプレックスの全面肯定か。もてる男のやり口だ。
「そのための費用は、いくらかきいたかな。」
「これくらいの整形だと、手術も三回くらい必要になる。全部で二百万から三百万弱くらいだろう。顎の先端を削り、左右のえらを削り、顎関節を奥に押し込んで、しゃくれを治す。そういう話でした。」
ジェフ鈴木にはコンプレックスを抱えた沢山のお得意さんがいて、不必要な整形を重ねさせ、池袋4D美容外科から多額のキックバックを受け取っている。おれがそんな話をしてもまったく無駄になりそうだ。
うっすらと涙を張った目で、スズカは笑った。いや、目元にやさしいしわが刻まれて、笑ったのだと分かった。自嘲の笑みだ。
「わたしは子供のころから、ずっとあごっていうあだ名だった。どうしてみんなみたいに普通の形をしていないのか、不思議で仕方なかった。マスクなんてしないで、普通にひと前で食事ができたり、笑える人はいいなあ。なぜ、こんな顔に生まれてしまったのかな。お父さんもお母さんも普通の顔なのに、わたしだけ変だなんて、きっと拾われた子に違いない。小学生のころから心の中で、そう思っていた。」
目の色が次第に深くなる。スズカが自分の中に潜っていくのを、なんとかしてとめなければならない。もどってこられなくなる深さが人の心にはある。
「ちょっと待った。あんの顔、ぜんぜん変じゃないよ。誰が見たって美人だろ。」
また目元が淋しげに笑った。
「悠さんって、園田さんに似てますね。同じ反応をした。園田さん言ってました。夜も昼も一生マスクをつけてていいから、付き合ってくれないかって。馬鹿みたいですよね。マスクフェチなのかな。」
「そんなはずないだろ。あんたが好きだったから、そういったに決まってる。」
いつの間にかストーカー男の弁護をしていた。なんだかわけのわからない流れ。
「おれはスズカさんは本気で綺麗だと思うよ。気にしてる顎だって、問題なんかないだろう。マスクする必要なんて、ぜんぜんないよ。」
ギラリと目の奥でなにかが光った。逆鱗。
「どんなに褒められても、なぐさめられても、コンプレックスはコンプレックスなんです。わたしの顔について話をするのは、今後一切やめてもらえませんか。自分から頼んでおいて生意気ですけど、この先続けられなくなる。」
おれもため息をつきたくなった。だが、このマスク美人を放っておくわけにもいかない。この街には心に穴が開いた人間ばかり専門でカモにする業者がいろいろといるんだ。
おれはスマホの画面を確認した。昼休みは残り二十分。いつまでも理解不能のコンプレックスにばかりかまってはいられない。そっちの方はトラブルシューターより、カウンセラーのほうが役に立ちそうだ。
別な切り口から攻めてみることにした。
「ジェフはなんていってた?」
安心の目。さすがに商売オカマで、女心を掴むのがうまい。
「顎が長いですって。右側に少し歪んでいる。えらも削ったほうがいい。すこししゃくれ気味かしら。そんなふうに。一生うじうじと悩むより、さっさと美容整形して、自信を取り戻さなくちゃ。そうじゃないと、その顎のせいでいつまでたっても自分の人生のスタートきれないじゃないの。そういってくれました。」
文句なしの商売人。コンプレックスの全面肯定か。もてる男のやり口だ。
「そのための費用は、いくらかきいたかな。」
「これくらいの整形だと、手術も三回くらい必要になる。全部で二百万から三百万弱くらいだろう。顎の先端を削り、左右のえらを削り、顎関節を奥に押し込んで、しゃくれを治す。そういう話でした。」
ジェフ鈴木にはコンプレックスを抱えた沢山のお得意さんがいて、不必要な整形を重ねさせ、池袋4D美容外科から多額のキックバックを受け取っている。おれがそんな話をしてもまったく無駄になりそうだ。