ー特別篇ー立教通り整形シンジゲート
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「ねえ、あの子どうだった?」
茶屋に戻ると久秀が好奇心を露骨に示し、声をかけてくる。当然おれは無視した。
「けっこうな別嬪さんだったわよね。それ以上に何かわけありのだけど。」
新クライアントのマスク女、夏浦涼。三次元立体マスクをはずさないが、確かに美人だ。だけど別嬪はないよな。いまはめったに聞かない単語。昔、そんなアイドル雑誌があったような。おれは店専用のエプロンを絞めていった。
「うるさいな。訳ありと感づいたなら面倒ごとをおれに斡旋するな。」
「コラムの進みも悪い、店の仕事もしない、ただただ手持ちぶさたで時間を浪費している愚か者の世話を焼いて何が悪い?」
敵は開き直った。いや、大半は事実なので何にも言えないのだが……。おれは何か言い返そうにも言葉が出ず、逃げるように奥の自室にあがってCDを探した。自慢じゃないが、クラシックの名曲はほぼすべて揃ってるんだ。最近は激安価格のボックスセットが色んなレーベルから登場している。五十枚入りで七千円とかね。
おれはそういうのを集め、バロックから現代音楽までのライブラリーを作ったというわけ。見つけ出した一枚は、ハチャトリアンの「組曲仮面舞踏会」。立体マスクで顔を隠すスズカにぴったりだと思った。実際、店でかけてみると優雅な舞踏会の雰囲気が、あの美人にはあっている。ワルツ、ノクターン、マズルカ、ロマンス、ギャロップの全五曲。おれはマズルカなんかが好きだな。
店先に戻り冷蔵庫の中で冷やしておいたスイカを取りだし、菜切り包丁で割っていく。この時期は団子を売るより水菓子のが売れるのだ。二十四分の一に切り、皮を切り落とした身に割りばしを刺していく。これで一本百五十円。ちょっと手をかけるだけで、元の倍の値段で売れる。さて、今夜の晩飯代でも稼ぐか。空は夕日を燃え残して明るいが、路地はすっかり暗くなっている。
おれはワルツのリズムを取りながら、CDについていたライナーノートに目を通した。「仮面舞踏会」の元になったのはレールモントフの戯曲で、帝政末期のロシア、賭博師が美貌の妻の不倫疑惑に嫉妬して、毒入りアイスクリームで殺害してしまうという残酷なお話。
嫉妬にかられたストーカーとマスクをつけた美人を、どうしても思い出してしまう。
いくら東京が猛暑日続きだといっても、まさかアイスクリームでスズカを殺そうとは思わないだろうが。おれの背中は少しだけ涼しくなった。
茶屋に戻ると久秀が好奇心を露骨に示し、声をかけてくる。当然おれは無視した。
「けっこうな別嬪さんだったわよね。それ以上に何かわけありのだけど。」
新クライアントのマスク女、夏浦涼。三次元立体マスクをはずさないが、確かに美人だ。だけど別嬪はないよな。いまはめったに聞かない単語。昔、そんなアイドル雑誌があったような。おれは店専用のエプロンを絞めていった。
「うるさいな。訳ありと感づいたなら面倒ごとをおれに斡旋するな。」
「コラムの進みも悪い、店の仕事もしない、ただただ手持ちぶさたで時間を浪費している愚か者の世話を焼いて何が悪い?」
敵は開き直った。いや、大半は事実なので何にも言えないのだが……。おれは何か言い返そうにも言葉が出ず、逃げるように奥の自室にあがってCDを探した。自慢じゃないが、クラシックの名曲はほぼすべて揃ってるんだ。最近は激安価格のボックスセットが色んなレーベルから登場している。五十枚入りで七千円とかね。
おれはそういうのを集め、バロックから現代音楽までのライブラリーを作ったというわけ。見つけ出した一枚は、ハチャトリアンの「組曲仮面舞踏会」。立体マスクで顔を隠すスズカにぴったりだと思った。実際、店でかけてみると優雅な舞踏会の雰囲気が、あの美人にはあっている。ワルツ、ノクターン、マズルカ、ロマンス、ギャロップの全五曲。おれはマズルカなんかが好きだな。
店先に戻り冷蔵庫の中で冷やしておいたスイカを取りだし、菜切り包丁で割っていく。この時期は団子を売るより水菓子のが売れるのだ。二十四分の一に切り、皮を切り落とした身に割りばしを刺していく。これで一本百五十円。ちょっと手をかけるだけで、元の倍の値段で売れる。さて、今夜の晩飯代でも稼ぐか。空は夕日を燃え残して明るいが、路地はすっかり暗くなっている。
おれはワルツのリズムを取りながら、CDについていたライナーノートに目を通した。「仮面舞踏会」の元になったのはレールモントフの戯曲で、帝政末期のロシア、賭博師が美貌の妻の不倫疑惑に嫉妬して、毒入りアイスクリームで殺害してしまうという残酷なお話。
嫉妬にかられたストーカーとマスクをつけた美人を、どうしても思い出してしまう。
いくら東京が猛暑日続きだといっても、まさかアイスクリームでスズカを殺そうとは思わないだろうが。おれの背中は少しだけ涼しくなった。