ー特別篇ー立教通り整形シンジゲート
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女の太ももに注目していたおれは、女の顔を見て驚愕した。マナー上、なんとか顔に驚きを出さないように全力で努力する。
「この子が今度のクライアントー?」
どんな単語にでも音引きをいれる女。だが、驚愕の素はホットパンツ女の顔の中心にある。鼻って普通は顔の中央に棒のように鼻梁が通っているよな。ある程度の太さのある柱みたいに。だが、その女の鼻は鼻梁(びりょう)が南アルプス連峰の頂みたいに薄くとがっているんだ。カミソリみたいに削げ落ちた鼻筋。度重なる美容整形で、中央部を残しほとんど鼻の骨を削ってしまったのだろう。
「あーら、スーザン、今日もお鼻の調子よさげじゃなーい」
とてもまともな神経とは思えない。おれたちの横を通りすぎる母子連れの子供の方が、鼻削ぎ女の顔を指さした。母親はあわてて子どもの手を引き、足早にロータリーに消えていく。
「じゃ、悠さん。わたしたちはこれからミーティングがあるから失礼するわね。」
ジェフ鈴木がスズカの二の腕をつかんでそういった。おれもそろそろ店番をしなければいけない時間だ。
「わかった。おれも本業に戻るよ。」
そういいながら、ホットパンツ女には相当な違和感を覚えていた。もちろん紙のように薄い鼻のせいもあるが、どこか精神的なアンバランスを冷気のように白く発しているのだ。おれは違和感を殺し、スズカに片手をあげた。
「じゃあ、なにかあったら……」
スズカがおれの背後をにらんで叫んだ。右手で指す。
「あっ、あの人!」
おれは年俸一千二百万ドルのNBAプレイヤー並みの素早さで反転した。東武デパートの一階の角にある花屋の前に、ストーカー男・園田が立っていた。背景のガラスケースには夏の花がカラフルに満開。男はこっちを見ている。
「あいつか」
背中越しにスズカに最終確認した。
「ええ、園田さん」
おれが全速力で駆けだすと、園田にこちらに背中を向けるのは、ほぼ同時。おれは風を切って走った。ストーカー男は小太りの割に足が速い。園田は夕方の人ごみで混雑する地下トンネルを通過して、池袋駅北口の線路沿いにかけていく。
線路を渡る陸橋の名は池袋大橋。そこまで三、四百メートルはあるだろうか。夕日を浴びたアスファルトのうえは、サウナの中でも駆けるようだ。差はなかなか縮まらない。百メートルはある長い坂を上り、大橋にかかった。遥か先に区の清掃工場の抽象彫刻のような煙突が夕日を浴びてそびえている。
「待てー!」
おれは叫んだが園田の足は止まらなかった。陸橋の先を白いシャツの背中を帆のように膨らませてかけていく。敵ながら天晴な逃げ足だった。本気の本気を出せばガイゼルにも対抗できるおれだが池袋大橋の真ん中であきせめて、両手に膝をついた。息はウエイトリフティングで十トンばかり上げた選手のように荒い。
こんなところをスズカに見られなくてよかった。おれは陸橋のうえを抜ける夏の夕風で汗を冷やすと、とぼとぼと西一番街に戻った。決定的な走るという行為への嫌悪だ。この夏は早朝ウォーキングから始めてみようかな。
自分自身に冗談を言いながら、なぜかおれの頭を離れなかったのは、スズカの決して取ることのない三次元マスクと折り鶴の翼のように薄く尖ったホットパンツの女の鼻だった。
なぜ、ひとのつくりだす美しさはいつもいきすぎるんだろう。
「この子が今度のクライアントー?」
どんな単語にでも音引きをいれる女。だが、驚愕の素はホットパンツ女の顔の中心にある。鼻って普通は顔の中央に棒のように鼻梁が通っているよな。ある程度の太さのある柱みたいに。だが、その女の鼻は鼻梁(びりょう)が南アルプス連峰の頂みたいに薄くとがっているんだ。カミソリみたいに削げ落ちた鼻筋。度重なる美容整形で、中央部を残しほとんど鼻の骨を削ってしまったのだろう。
「あーら、スーザン、今日もお鼻の調子よさげじゃなーい」
とてもまともな神経とは思えない。おれたちの横を通りすぎる母子連れの子供の方が、鼻削ぎ女の顔を指さした。母親はあわてて子どもの手を引き、足早にロータリーに消えていく。
「じゃ、悠さん。わたしたちはこれからミーティングがあるから失礼するわね。」
ジェフ鈴木がスズカの二の腕をつかんでそういった。おれもそろそろ店番をしなければいけない時間だ。
「わかった。おれも本業に戻るよ。」
そういいながら、ホットパンツ女には相当な違和感を覚えていた。もちろん紙のように薄い鼻のせいもあるが、どこか精神的なアンバランスを冷気のように白く発しているのだ。おれは違和感を殺し、スズカに片手をあげた。
「じゃあ、なにかあったら……」
スズカがおれの背後をにらんで叫んだ。右手で指す。
「あっ、あの人!」
おれは年俸一千二百万ドルのNBAプレイヤー並みの素早さで反転した。東武デパートの一階の角にある花屋の前に、ストーカー男・園田が立っていた。背景のガラスケースには夏の花がカラフルに満開。男はこっちを見ている。
「あいつか」
背中越しにスズカに最終確認した。
「ええ、園田さん」
おれが全速力で駆けだすと、園田にこちらに背中を向けるのは、ほぼ同時。おれは風を切って走った。ストーカー男は小太りの割に足が速い。園田は夕方の人ごみで混雑する地下トンネルを通過して、池袋駅北口の線路沿いにかけていく。
線路を渡る陸橋の名は池袋大橋。そこまで三、四百メートルはあるだろうか。夕日を浴びたアスファルトのうえは、サウナの中でも駆けるようだ。差はなかなか縮まらない。百メートルはある長い坂を上り、大橋にかかった。遥か先に区の清掃工場の抽象彫刻のような煙突が夕日を浴びてそびえている。
「待てー!」
おれは叫んだが園田の足は止まらなかった。陸橋の先を白いシャツの背中を帆のように膨らませてかけていく。敵ながら天晴な逃げ足だった。本気の本気を出せばガイゼルにも対抗できるおれだが池袋大橋の真ん中であきせめて、両手に膝をついた。息はウエイトリフティングで十トンばかり上げた選手のように荒い。
こんなところをスズカに見られなくてよかった。おれは陸橋のうえを抜ける夏の夕風で汗を冷やすと、とぼとぼと西一番街に戻った。決定的な走るという行為への嫌悪だ。この夏は早朝ウォーキングから始めてみようかな。
自分自身に冗談を言いながら、なぜかおれの頭を離れなかったのは、スズカの決して取ることのない三次元マスクと折り鶴の翼のように薄く尖ったホットパンツの女の鼻だった。
なぜ、ひとのつくりだす美しさはいつもいきすぎるんだろう。