東口と西口を結ぶ長いトンネルを抜けると、そこは熱帯だった。池袋の街の底が白くなった。

午後五時というと、この季節は正午と変わらない熱気だ。最高気温を記録した街がさらに西日にさらされて、西口ロータリーが砂漠の蜃気楼のようにかすんで見える。

交番の前の日陰に立っていたのは、妙にひょろりと背の高い男。シャツはピンクのサテン素材で、やけにテカテカしている。サイズはふたつくらい小さいんじゃないだろうか。ピチピチで、袖はつんつるてん。トップスタイリストはシャツのボタンを上から三つ開けて、胸元を見せつけている。

ジェフ杉崎はおれに気付くと、険しい表情になった。マスク姫の声が明るくなる。

「ジェフさん、お待たせしました。こちらがご紹介いただいた小鳥遊悠さんです。」

ジェフの顔が即座に更新された。満面の笑み。

「あぁーら、あなたがあの有名なトラブルシューターさんなのね。わたしのS・ウルフのお友達が言ってたわ。この街で一番頭が切れて、とっても素敵な兄貴だって」

おれはノーマルな男女にはあまり褒められないが、ものがわかった普通じゃないやつには評判がいい。今はきっと普通が変で、変が普通の時代なんだろう。

「ありがと。いつかおれの髪も切ってもらっていいかな。店は立教通りなんだよな」

「そうよ。いつでもいらっしゃい。初回はタダにしてあげる。わたしとしては殿方はあんまりヘアスタイルなんか気を使わないくらいの方が、好みなんだけどなあ。」

おれに向かってウインクした。さすがにおれも初対面のゲイにウインクは返せない。話を返る。

「トップスタイリストなんだよな。今はお店の方はいいのか」

胸を開いた手のひらで押さえて、にっと笑った。

「うん、今は大丈夫。わたしは髪を切るだけじゃなく、女の子の美を総合的にプロデュースしているの。この人の相談にものっているのよ。ねっ、スズカ」

なぜあっちの世界の人間は女性のファッションだとかメイクアップなんかに、あれほど詳しいのだろうか。そのとき、東武デパートの出口のあたりから声がかかった。甘ったるい女の声だ。

「ジェフさーん、ぐうぜーん」

黒いキャスケットをかぶった小柄な女だった。ジェフの背中をべたべたと触っている。足の付け根と恥骨をなんとか隠すくらいの恐ろしく短いホットパンツ。サスペンダーと虹色のプリントTシャツ。素足には革ひもをふくらはぎに巻きつけるグラディエーターサンダル。おれはこのタイプは背の低いO脚の女は履かない方がいいと思うんだが。

ジェフは露骨に嫌な顔をした。