ー特別篇ー立教通り整形シンジゲート
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とりあえずスマホを抜いて、スズカとアドレスを交換した。ついでにさっきのツーショット写真を送信してもらい、ストーカー男の名前を教えてもらう。園田浩平(そのだこうへい)三十一歳。今は介護職の契約社員で、北区の滝野川で働いているという。
「園田がストーカーになったきっかけとか、あるのかな。スズカさんに新しいボーイフレンドができたとか、街で偶然再会したとか。」
「うーん、それは……」
しばらく時間を置いた。目を見る。カラコンを入れた透明な茶色の瞳が光を失っている。なぜか人は何かを隠すときには、目の色が暗く変わるんだ。おれは別に刑事ではないけれど、街の底でそれぞれ問題を抱えたたくさんの人間を見てきたから、それくらいはわかる。嘘の匂いは目からこぼれる。どんな美人でも、そいつは変わらない。
スズカはスイッチを入れ直したように語り始めた。
「まえの会社に共通の知人がいて、その子が私の近状を話したみたいで、それからつきまといが始まりました。」
ストーカーの核心の一部がそこにある気がした。普通の色恋がらみのストーカーなら、ここはスズカに新しいボーイフレンドができたといったあたりなんだが……。
「その友達が何を言ったのか、分からないか。」
また目から光が消える。夜の暗い鏡みたいに何も映さなくなるのだ。
「わかりません。」
おれにもこの依頼人がよくわからなかった。スズカは何か強いこだわりがある。絶対に外さないマスクとか、完璧に整えたアイメイクとか。美人なのにすべてに必死なんだ。
自分のことは棚に上げて、ふとおれは思った。
スズカは今、男はいない。恋をしている感じもない。すごくきれいな女なのに、決してマスクを取らずに、ひとりぼっちなのだ。
なんだか少子化ニッポンのサンプルケースみたいな美女。
おれはレモンティでのどを潤した。偉そうなことを言うようだが、スズカに足りないのはひと瓶二万円の高級化粧水じゃないが、潤いかもしれない。隙というか、ゆとりというか、男が付け込める少々のスペースというか。なんにしても緊張しすぎたり、カチカチに硬直してると、人は寄ってこないのだ。
「あの……小鳥遊さん。」
ビューラーで丸く上げているのだろう。まつげがものすごく長くて、綺麗に反っていた。マッチ棒が半ダース乗りそう。この女の上目遣いは危険だ。
「悠でいいよ。」
いっておくが二枚目風には絶対に言ってないからな。腐女子向けの恋愛シュミレーションの声優みたいな声が、おれは大嫌い。
「わかりました、悠さん、本当にお金はお支払いしなくて、いいんですか」
よほど金に困っているのだろうか。おれは揺さぶりをかけてみることにした。この女は何か隠してるし、マスクをかけるようにそいつを一生隠し続けられると思っている。
「まあ、そいつは時と場合によるけど。」
さっとスズカの顔色が変わった。
「困ったなあ。わたしはこの夏、まとまったお金が必要なので、あまり余裕がないんです。」
長いまつ毛が伏し目がちになる。女のまつげと男のまつげは、科学組成なら分子ひとつも違わないはずなのに、どうしてこんなに違うのだろう。
「っていうのは嘘。ジェフ君の言う通り、おれはこの街のガキからは金を受け取ったことはないよ。ぜんぜんみんな持ってないからな。」
それにつけ加えるなら、おれはみんながいうように金が大切なものとは思っていないのだ。もっと大事なものは他にいくらでもある。あんただって、すぐに四つか五つぐらい、金より大事なものをあげられるよな。それが生きてるってこと。
「園田がストーカーになったきっかけとか、あるのかな。スズカさんに新しいボーイフレンドができたとか、街で偶然再会したとか。」
「うーん、それは……」
しばらく時間を置いた。目を見る。カラコンを入れた透明な茶色の瞳が光を失っている。なぜか人は何かを隠すときには、目の色が暗く変わるんだ。おれは別に刑事ではないけれど、街の底でそれぞれ問題を抱えたたくさんの人間を見てきたから、それくらいはわかる。嘘の匂いは目からこぼれる。どんな美人でも、そいつは変わらない。
スズカはスイッチを入れ直したように語り始めた。
「まえの会社に共通の知人がいて、その子が私の近状を話したみたいで、それからつきまといが始まりました。」
ストーカーの核心の一部がそこにある気がした。普通の色恋がらみのストーカーなら、ここはスズカに新しいボーイフレンドができたといったあたりなんだが……。
「その友達が何を言ったのか、分からないか。」
また目から光が消える。夜の暗い鏡みたいに何も映さなくなるのだ。
「わかりません。」
おれにもこの依頼人がよくわからなかった。スズカは何か強いこだわりがある。絶対に外さないマスクとか、完璧に整えたアイメイクとか。美人なのにすべてに必死なんだ。
自分のことは棚に上げて、ふとおれは思った。
スズカは今、男はいない。恋をしている感じもない。すごくきれいな女なのに、決してマスクを取らずに、ひとりぼっちなのだ。
なんだか少子化ニッポンのサンプルケースみたいな美女。
おれはレモンティでのどを潤した。偉そうなことを言うようだが、スズカに足りないのはひと瓶二万円の高級化粧水じゃないが、潤いかもしれない。隙というか、ゆとりというか、男が付け込める少々のスペースというか。なんにしても緊張しすぎたり、カチカチに硬直してると、人は寄ってこないのだ。
「あの……小鳥遊さん。」
ビューラーで丸く上げているのだろう。まつげがものすごく長くて、綺麗に反っていた。マッチ棒が半ダース乗りそう。この女の上目遣いは危険だ。
「悠でいいよ。」
いっておくが二枚目風には絶対に言ってないからな。腐女子向けの恋愛シュミレーションの声優みたいな声が、おれは大嫌い。
「わかりました、悠さん、本当にお金はお支払いしなくて、いいんですか」
よほど金に困っているのだろうか。おれは揺さぶりをかけてみることにした。この女は何か隠してるし、マスクをかけるようにそいつを一生隠し続けられると思っている。
「まあ、そいつは時と場合によるけど。」
さっとスズカの顔色が変わった。
「困ったなあ。わたしはこの夏、まとまったお金が必要なので、あまり余裕がないんです。」
長いまつ毛が伏し目がちになる。女のまつげと男のまつげは、科学組成なら分子ひとつも違わないはずなのに、どうしてこんなに違うのだろう。
「っていうのは嘘。ジェフ君の言う通り、おれはこの街のガキからは金を受け取ったことはないよ。ぜんぜんみんな持ってないからな。」
それにつけ加えるなら、おれはみんながいうように金が大切なものとは思っていないのだ。もっと大事なものは他にいくらでもある。あんただって、すぐに四つか五つぐらい、金より大事なものをあげられるよな。それが生きてるってこと。