ー特別篇ー立教通り整形シンジゲート
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そろそろ夕方で、茶屋に帰って、久秀と店番を交代しようとカフェを出ようとしたところだった。ノートパソコンは小脇に抱えている。足は素足に雪駄。歩くたびにシャランシャランと音がする。別に威嚇してるわけじゃないよ。
「あの、すみません。」
やわらかで、すごくいい声。おまけにちょっと色っぽい。こんな声のテレフォンアポインターがいたら、必要のない英語の教材セット(CD20枚組で十九万八千円!)だって、ほいほい契約してしまいそうだ。おれはレジの手前で顔をあげた。また凄い声がする。
「小鳥遊さんですか、小鳥遊悠さん?」
夏風邪でも引いているのだろうか。顔の下半分を覆う立体的なマスクをつけた若い女だった。目は凄くきれいだ。黒髪ショートのボブ。ノースリーブの淡いブルーのサマードレスを着ている。全身ぐるりと観察してから、また大きく幅広平行二重の目に戻した。
「そうだけど、なんの用?」
モテない男は初対面の美人に声をかけられると警戒する。キャッチか美人局(つつもたせ)かってね。おれも同じ反応をしてしまった。女はちらりと背後を振り向いた。誰か連れがいるのだろうか。さっと履くように視線を走らせて、おれの目を見る。カラーコンタクトだろうか。ひどく明るい茶色の目。レモンを絞って淡くなった紅茶みたいだ。
「お仕事を頼みたくて。茶屋の店長さんに、この場所を聞いてきました。あっ、そうだ。店長さんから、小鳥遊さんへの伝言預かってます。」
あいつはまた勝手に店長を名乗っている。あとでちゃんと訂正しておかないと。
「久秀、なんだって?」
「頑張りなさいって。どういう意味なんですかね、ただ頑張りなさいって。」
ここ最近、久秀の最大の嫌がらせは勝手に面倒ごとをおれに仕事を押し付けるだった。トラブルを抱えた依頼人が若い女だと、断らないだろうといってよこす。そうして着実に店から引きはがそうとしていくのだ。
うちの雇われ店員は恐ろしい女である。
おれはコラムの残りを考えた。あと六百文字と何回かの手直しだ。明日一日苦しめば、今月の締め切りもなんとか乗り越えられる。もう一度マスクの女の目を見る。顔半分を隠す白いマスクを取れば、さぞかし絶世の美女なんだろうな。梅雨あけの何週間かを、こんな美人の依頼を請けて過ごすのは悪くないかもしれない。
「分かった、とりあえず、話を聞くよ。ただひとつ、あの店の店長はおれであって久秀は店員だから。」
おれは夕方でも三分の一ほどしか埋まっていないPダッシュパルコのカフェを見た。窓際のテーブルが空いている。伝票をもったままプラスチックな質感の店内にUターンした。朝からずっとコーヒーを飲んでいるので、次はこの女の瞳のように淡いダージリンでも飲むか。
「あの、すみません。」
やわらかで、すごくいい声。おまけにちょっと色っぽい。こんな声のテレフォンアポインターがいたら、必要のない英語の教材セット(CD20枚組で十九万八千円!)だって、ほいほい契約してしまいそうだ。おれはレジの手前で顔をあげた。また凄い声がする。
「小鳥遊さんですか、小鳥遊悠さん?」
夏風邪でも引いているのだろうか。顔の下半分を覆う立体的なマスクをつけた若い女だった。目は凄くきれいだ。黒髪ショートのボブ。ノースリーブの淡いブルーのサマードレスを着ている。全身ぐるりと観察してから、また大きく幅広平行二重の目に戻した。
「そうだけど、なんの用?」
モテない男は初対面の美人に声をかけられると警戒する。キャッチか美人局(つつもたせ)かってね。おれも同じ反応をしてしまった。女はちらりと背後を振り向いた。誰か連れがいるのだろうか。さっと履くように視線を走らせて、おれの目を見る。カラーコンタクトだろうか。ひどく明るい茶色の目。レモンを絞って淡くなった紅茶みたいだ。
「お仕事を頼みたくて。茶屋の店長さんに、この場所を聞いてきました。あっ、そうだ。店長さんから、小鳥遊さんへの伝言預かってます。」
あいつはまた勝手に店長を名乗っている。あとでちゃんと訂正しておかないと。
「久秀、なんだって?」
「頑張りなさいって。どういう意味なんですかね、ただ頑張りなさいって。」
ここ最近、久秀の最大の嫌がらせは勝手に面倒ごとをおれに仕事を押し付けるだった。トラブルを抱えた依頼人が若い女だと、断らないだろうといってよこす。そうして着実に店から引きはがそうとしていくのだ。
うちの雇われ店員は恐ろしい女である。
おれはコラムの残りを考えた。あと六百文字と何回かの手直しだ。明日一日苦しめば、今月の締め切りもなんとか乗り越えられる。もう一度マスクの女の目を見る。顔半分を隠す白いマスクを取れば、さぞかし絶世の美女なんだろうな。梅雨あけの何週間かを、こんな美人の依頼を請けて過ごすのは悪くないかもしれない。
「分かった、とりあえず、話を聞くよ。ただひとつ、あの店の店長はおれであって久秀は店員だから。」
おれは夕方でも三分の一ほどしか埋まっていないPダッシュパルコのカフェを見た。窓際のテーブルが空いている。伝票をもったままプラスチックな質感の店内にUターンした。朝からずっとコーヒーを飲んでいるので、次はこの女の瞳のように淡いダージリンでも飲むか。