二時ごろ、外出することになった。遅い昼食とビックカメラで注文していた新しいビデオ機材の回収だ。流星は元ビデオアートの製作者で画質には厳しかった。おふざけの映像も最新の機材で撮影している。スマホでざっくりシューティングすることもあるが、スタジオでは4K動画が撮れるプロ用一眼レフが定番だ。

その日はゴング斎藤の口数が少なかった。チードルの方はめったに口をきかないので、しゃべるのは流星ばかり。高速エレベーターで地下駐車場に降りていく。箱の中で流星がいった。

「ゴング、おまえがランチ決めていいぞ。なんにする。高級なやつでもいいからな。東武デパートの最上階とか」

斎藤はおれとも目を合わせなかった。投げやりに言う。

「なんでもいいっすよ」

おれはいった。

「どうかしたのか」

筋肉馬鹿が何か言いたげな目をしたが、流星が遮った。

「いや、こいつ今週いっぱいで流星スタジオを卒業するんだ。来週からは一本立ちのユーチューバーになる。」

「そうか、おめでとう」

口をとがらせてゴングがいった。

「あざーす」

エレベーターをおりて薄暗い地下駐車場を歩いていく。流星について何度か角を曲がると、だんだんやつの足が速くなった。

「なんだよ、あれ」

最後には四人駆け足になっていた。

「いったいどこのどいつが、こんなことを……」

流星の車は白いアルファードで、ドアには流星のシールが貼ってあった。だが、フロントガラスは真っ白な細かな日々が走り、サイドの窓は全て叩き割られていた。室内は消火器で撒いたのだろうか、粉だらけで真っ白だ。流星が怒りで、顔面を真っ赤にしていた。

「チードル、お前ビデオ持ってるな」

携帯用のビデオカメラはユーチューバーの必需品らしい。地下アイドルオタクがカメラを取りだした。

「ちゃんと撮っといてくれ」

アルファードの周囲を回り、すべてを撮影していく。おれはスマホを抜いて、崇に報告を入れた。

「流星の車がやられた。ウィンドウを破られ、中に消火器をまかれた。ここで張り番をしていたS・ウルフからなんかあがってないか?」

北風のようなため息。

『そのビルは警備が難しいんだ。三階まではコンビニやショップが入ってるだろ。地下駐車場は共有で客が自由に使えるようになっている。いちおうは確認しておくが、あまり期待するな』

「わかった」

通話を切って、流星に声をかけた。

「これからどうする?」

「まず昼飯だ。ビックカメラにもいく。それからスタジオに戻って、今日の分の動画の編集を済ませる。警察への被害届はその後だな。」