『時代の先端ユーチューバー、子供だまして大金ゲット。今日も朝から血液サラサラ、涙流して玉ねぎくうくう。』

韻をまったく踏んでいないへたくそなラップだった。

「この手の奴はどこにでも湧いてくる。俺も相手にしなければよかったんだが、ちょっと腹が立つことがあって、動画でコイツらに反撃しちまった。ひと様が丹精込めて作ったものを、壊すことしかできないゴリラども。奴らの脳みそは、やつらの糞並み。上野動物園のゴリラ舎で昼寝してる本物映像をバックに、こっちも適当なラップを入れてやったんだ。」

ちょっと面白そうだ。おれは低レベルのもめごとは基本的に大好き。

「その映像みられないのか」

「そっちのほうはもうユーチューバーから消去した。だけど、奴らが腹を立ててな。俺はあと三日でユーチューバー三周年なんだが、そいつを台無しにしてやるって脅迫が届いた。こいつだ。」

またもスマホを操作する。ムービーファイルを呼び出した。タップしてセレクト。なんというかユーチューバーは全部デジタルで済ませる癖があるようだ。映像は薄汚れたテーブル。その上に皮をむかれた玉ねぎが置いてある。横にはへたくそな似顔絵で流星が描いてある。額には☆がひとつ。

『戸田橋デストロイヤーZから、三周年記念にプレゼントをやる。それがこいつだ。』

ハンマーが落ちてきて、玉ねぎが一瞬で破片とジュースに粉砕された。カメラの直前にゴリラのマスクが現れる。

『玉ねぎ野郎。三年でお陀仏。こうなんないように気をつけろ。』

映像はぷっつりと切れた。全部でCF半分ほど。流星はおかしなところに感心していた。

「やつらもなかなか腕があるな。ツイッターがやってる六秒のショートムービー専用の動画共有サービスでVineってのがあるけど、今のなんかは再生稼げるんじゃないかな。」

自分が脅されているのに、映像の撮影方法や編集を褒める。なんだかよく分からない人種だ。やっぱりおれは古くさいアナログ人間なのかもしれない。

「ユーチューバー三周年記念って、なにか特別なことやるのか?」

なぜかわからないが、芸能関係とかネット方面では妙に周年記念のイベントが好きだよな。おれはもう何年もコラムを掲載してるけど。そんな記念イベントなどやったことがない。流星は顔を崩して笑った。なんというか憎めない奴。

「もちろんだ。こいつを見てくれ。」

またスマホを操作する。次世代のやつらの生活って、もうこれ一台で全部片付くんじゃないだろうか。生まれてから死ぬまでの全部。人差し指をしゅっしゅっで終了。呼び出された動画は、またも死ぬほどくだらないやつ。