俺は堀井ではなく、おしゃれなカフェの店長を見ていた。

ホリイが名乗ったとき、北原の顔は上品さを保ったままカチカチに凍りついたようだった。

池袋は本日局地的に熱風や寒風が吹く。おかしな陽気だ。

おしゃれな店に似合わないおれにだって、ひとつだけわかった。
その場にいる誰かが、なにかを隠しているのだ。

NPOのふたりがいってしまうと、北原はまた登録票のコピーを手にした。
思い出したようにいう。

「そういえば、あのふたりはよく顔をみせてくれるな」

「へぇ、他には？」

「わからない。ぼくは人の顔を覚えるのが苦手で、きみのこともすぐ忘れそうだ」

まだまだ余裕があるようだ。
俺は皮肉な言葉をかえそうかと思ったが、やめておいた。

北原のことは継続調査の対象にいれることにした。
間抜けの振りをしておくほうがいいだろう。
無理に演じなくても、地のままでいいから、俺の場合楽。


………

歩いているうちに時間ははや昼前になっていた。
ポカポカと気持ちのいい日差しが人々を出歩かせたくさせるようなウィークデー。

俺は道路と歩道の境界にあるレンガを積んだ植え込みに座って携帯をかけた。

『はい……もし…もし？』

相変わらず、元気なのかそうでないのか判断できないボソボソ声がする。

「うっす。悠だけど。」

『調査…ご苦労…様です。』

禅はなにもいってないのに俺が朝から街にくりだしてるのを知っていた。

「よく朝から出歩いてるってわかったな。」

『なにを…いまさら…悠さんが…街に入れば…すぐに連絡が…きますよ。今週に…入って…池袋に…来なかった…のは1日だけ…ですよね。』

正解。ゲームの発売日だった時だ。

「怖ぇよ。それ。」

『ふふ…ちなみに……女性と…いた話しは…聞かない…ですね。』

これも正解だが、超のつくほど余計なお世話だった。
俺はバレバレの嘘をついた。

「おしゃれな俺はおしゃれな女とおしゃれな場所に行くんだよ。ガキだらけの場所ではデートしないんだ。」

受話器から禅のどもった様な笑い声がした。
なんとなく恥ずかしかったから俺は口早に用件をいった。

「今から動けるやつはいるか？」

『そう…ですね……60人…くらいならすぐに…でも。必要なら…あと20人用意…できます…けど？』

80人も集めてローラー作戦でも考えてるのかと聞きたい。

「違う。そうじゃ無くて紅とか澪とか話が出来る奴。頭より手の方が早いガキはノーサンキュウ」

『澪さんと…紅さん…なら…ここに居ますよ…』

「そうか。なら俺も顔出すからそこに居てくれ。」

電話を切って背伸びをした。

「ん～…すっー…」

全身で深呼吸。

鼻から入ってくる空気に前の店が焼いているパンの匂いが美味しそうだ。

俺のハラはグゥッと鳴いた。