ー特別篇ーYoutuber∴芸術劇場
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寝っこと芯までふくめて、すべてを平らげるのに要した時間は百六秒だった。流星は目を真っ赤に充血させて、セルカ棒の先のスマホに語りかけた。視線は全く動かさない。じっと小さなレンズを見つめている。
「先週より四秒遅かったな。ちょっと玉ねぎが大きかったかもしれない。では、また来週の玉ねぎタイムで会おう。良い子のみんなもどんどん真似してくれ。血液さらさら、百倍ヘルシーになるぞー、バイバイ!」
録画を止める。おれの方を見てにやりと笑った。
「つらくないのか?」
「始めてやったときは涙が止まらなかった。でも、今はちょいと涙ぐむぐらいで大丈夫。このあとは辛い方のジンジャエールがいいんだよな。口の中が中和されるというかさ。」
バックパックからウィルキンソンの瓶を取りだした。
「もうちょっと待っててくれるか。今、編集してアップしちまうから」
おれは素直に驚いていた。技術は進歩しているのだろう。やつセルカ棒からスマホを外し、指先ひとつでサッサと無駄な部分をカットとして、デジタル時計のレイヤーをかぶせた。いつも使用しているオープニングムービーを足して、おしまい。分というよりは秒単位の速さだった。
「さて、これをアップロードしてと」
そこだけわざとらしく、iPhoneを空にかかげた。
「アンタは今の動画で俺がいくら稼ぐと思う?」
公園のベンチで玉ねぎを食う二分弱。おれはこれに値段がつくとは思えなかった。首を横に振ると流星がいった。
「俺のチャンネル登録者数は百二十万人。玉ねぎタイムは人気のコンテンツだから、ほとんどの奴が見てくれる。小中学生のガキが多いけどな。今ので俺は即七万二千円ばかり稼いだってわけだ。」
うーん、おれには理解不能の経済システムがるっとの世界では出来上がっているようだ。
「スマホ一台で動画が取れて、ムービー編集までできるようになったのもここ何年かのことなんだ。今、ようやくネットの世界の革命は形になってきたとこなんだよ。昔なら今の動画を完成形にしてアップするのは、一日がかりだったんだからな。」
おれは奴が言っている言葉の意味がよく分からなかった。間抜けな質問をする。
「でも何年も前からユーチューブくらいあったよな。」
じれったそうに流星がうなずいた。
「ああ、サービス開始は二〇〇五年だ。だけど初期は画質も酷かったし、デスクトップやノートパソコンでしか見られなかった。スマホが進化したのはこの何年かで、本当の変化が来たんだ。去年世界中に出荷されたスマートフォンは十三億台。子供から年寄りまでひとり一台に近い状況だ。今じゃ、ガキどもはテレビよりスマホを見る時間の方が遥かに長い。」
おれはぽかんとしていたのだと思う。流星はツーブロックの頭を自分でくしゃくしゃにした。
「わかんないかな。世界中の数十億人がつながる映像と音楽と情報のバカデカイプラットフォームが、今姿を現しつつあるんだよ。そいつが世界をどう変えるか、まだだれにもわかっていない。新聞やテレビ、出版や音楽といったメディアビジネスは津波のような変化に飲まれている最中なんだ。」
おれも出版業界の片隅にいるから、少しは分かる。シベリア寒気団並みの冷風が業界を吹き荒れているのだ。おれたちの不幸は金融危機とネット革命が同時並行的に深化してしてしまったことなのだろう。旧型メディアは恐竜のように、スマホというネズミに打倒されつつある。
ユーチューバーか。するとこの蛍光パーカーの男がメディア津波の最先端でサーフィンをしている、次の時代の旗手ということになるのだろう。
セルカ棒で玉ねぎを食うところを自撮りする革命児。なんだかなぁ……。
「先週より四秒遅かったな。ちょっと玉ねぎが大きかったかもしれない。では、また来週の玉ねぎタイムで会おう。良い子のみんなもどんどん真似してくれ。血液さらさら、百倍ヘルシーになるぞー、バイバイ!」
録画を止める。おれの方を見てにやりと笑った。
「つらくないのか?」
「始めてやったときは涙が止まらなかった。でも、今はちょいと涙ぐむぐらいで大丈夫。このあとは辛い方のジンジャエールがいいんだよな。口の中が中和されるというかさ。」
バックパックからウィルキンソンの瓶を取りだした。
「もうちょっと待っててくれるか。今、編集してアップしちまうから」
おれは素直に驚いていた。技術は進歩しているのだろう。やつセルカ棒からスマホを外し、指先ひとつでサッサと無駄な部分をカットとして、デジタル時計のレイヤーをかぶせた。いつも使用しているオープニングムービーを足して、おしまい。分というよりは秒単位の速さだった。
「さて、これをアップロードしてと」
そこだけわざとらしく、iPhoneを空にかかげた。
「アンタは今の動画で俺がいくら稼ぐと思う?」
公園のベンチで玉ねぎを食う二分弱。おれはこれに値段がつくとは思えなかった。首を横に振ると流星がいった。
「俺のチャンネル登録者数は百二十万人。玉ねぎタイムは人気のコンテンツだから、ほとんどの奴が見てくれる。小中学生のガキが多いけどな。今ので俺は即七万二千円ばかり稼いだってわけだ。」
うーん、おれには理解不能の経済システムがるっとの世界では出来上がっているようだ。
「スマホ一台で動画が取れて、ムービー編集までできるようになったのもここ何年かのことなんだ。今、ようやくネットの世界の革命は形になってきたとこなんだよ。昔なら今の動画を完成形にしてアップするのは、一日がかりだったんだからな。」
おれは奴が言っている言葉の意味がよく分からなかった。間抜けな質問をする。
「でも何年も前からユーチューブくらいあったよな。」
じれったそうに流星がうなずいた。
「ああ、サービス開始は二〇〇五年だ。だけど初期は画質も酷かったし、デスクトップやノートパソコンでしか見られなかった。スマホが進化したのはこの何年かで、本当の変化が来たんだ。去年世界中に出荷されたスマートフォンは十三億台。子供から年寄りまでひとり一台に近い状況だ。今じゃ、ガキどもはテレビよりスマホを見る時間の方が遥かに長い。」
おれはぽかんとしていたのだと思う。流星はツーブロックの頭を自分でくしゃくしゃにした。
「わかんないかな。世界中の数十億人がつながる映像と音楽と情報のバカデカイプラットフォームが、今姿を現しつつあるんだよ。そいつが世界をどう変えるか、まだだれにもわかっていない。新聞やテレビ、出版や音楽といったメディアビジネスは津波のような変化に飲まれている最中なんだ。」
おれも出版業界の片隅にいるから、少しは分かる。シベリア寒気団並みの冷風が業界を吹き荒れているのだ。おれたちの不幸は金融危機とネット革命が同時並行的に深化してしてしまったことなのだろう。旧型メディアは恐竜のように、スマホというネズミに打倒されつつある。
ユーチューバーか。するとこの蛍光パーカーの男がメディア津波の最先端でサーフィンをしている、次の時代の旗手ということになるのだろう。
セルカ棒で玉ねぎを食うところを自撮りする革命児。なんだかなぁ……。