ー特別篇ーYoutuber∴芸術劇場
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「そいつが今、西口公園にいるんだな。」
『ああ、パイプベンチに座って、お前が来るのを待ってる。』
あきれた。人のことをひと声かければ、すぐに使える何でも屋と思っている。
「おれがいそがしかったら、どうするんだ」
崇は電話の向こうで低く笑った。カチカチに凍った角氷がこすれるような澄んだ笑い声。
『いそがしいか、いそがしくないかは関係ない。お前はどっちにしても、いつも退屈してるだろ。さっさと流星にあって、奴の本性を見てきてくれ。』
おれは手の中の桜餅を見た。ずしりと重く、ワックスを塗ったように光っている。おれが丹精込めてつくった逸品。ひとつ百二十円のこいつを売るより、おれにはもっと重要な天職があるはずなのだ。池袋の今のリアルレポーター、小鳥遊悠。ただページを埋めるために原稿を書いているわけじゃない。
「わかった。そいつの目印は?」
『ベンチに座ってる中で、一番目立つ奴だ。』
「あー?」
崇が電話の送話口を押さえて、部下に何か質問していた。すぐに戻ってくる。
『鮮やかな蛍光イエローのパーカーだそうだ。頼むぞ、悠。あとで報告をくれ。』
きっとS・ウルフの誰かが、今もやつを西口公園で張っているのだろう。口ではいろいろといっているが、崇は本気だ。
「ところで蛍光色のパーカーを着た流星は、仕事なにしてんだ?」
職業ですべては分からない。だが、大人の場合そいつは人の在り方の半分以上を事実上決定する。いや、日本では七割以上かもしれない。仕事以外に何もない大人って多いよな。崇が二月の日陰のそよ風のように囁いた。
『職業はユーチューバーだそうだ。俺は、ソイツがどういう仕事なのか知らない。あとはお前に任せる。』
ユーチューバー?それなんだと質問しようとしたところで通話が切れた。まあ、崇にしたらえらく長時間話をしたほうだろう。
王さまからのホットラインはいつだって簡潔にして明瞭。
久秀にひと声かけて街に出た。
夕方から始まる茶屋のコアタイムまでは、しばらく余裕がある。給料は安いが、時間が自由になるのが、店番のいいところ。平日午後のガラガラの映画館にも気軽に行ける。
JR池袋駅の西口ロータリーを通過しておれが感じたのは、なんだかやけに人出が少なくないってこと。消費税アップ以降、週末はともかく平日は副都心池袋も新幹線が通らない地方都市並みに静かなものだ。
リアルなものが動かない時代だ。うちは商店街の一角を占めていて、おれも大江戸学園の町全体の小売業の数字はだいたいわかっている。全力であれこれと仕掛けをして売りだしても、毎年のように数パーセントずつ売り上げが落ち込んでいくのだ。それが何年も続く。まともに働く人の心を削るような現実だよな。デフレ脱却ができれば、おれも本当にいいと思うよ。たとえどんな手を使ってもな。
おれは静かになった街を三分ばかり歩き、西口公園に到着した。
『ああ、パイプベンチに座って、お前が来るのを待ってる。』
あきれた。人のことをひと声かければ、すぐに使える何でも屋と思っている。
「おれがいそがしかったら、どうするんだ」
崇は電話の向こうで低く笑った。カチカチに凍った角氷がこすれるような澄んだ笑い声。
『いそがしいか、いそがしくないかは関係ない。お前はどっちにしても、いつも退屈してるだろ。さっさと流星にあって、奴の本性を見てきてくれ。』
おれは手の中の桜餅を見た。ずしりと重く、ワックスを塗ったように光っている。おれが丹精込めてつくった逸品。ひとつ百二十円のこいつを売るより、おれにはもっと重要な天職があるはずなのだ。池袋の今のリアルレポーター、小鳥遊悠。ただページを埋めるために原稿を書いているわけじゃない。
「わかった。そいつの目印は?」
『ベンチに座ってる中で、一番目立つ奴だ。』
「あー?」
崇が電話の送話口を押さえて、部下に何か質問していた。すぐに戻ってくる。
『鮮やかな蛍光イエローのパーカーだそうだ。頼むぞ、悠。あとで報告をくれ。』
きっとS・ウルフの誰かが、今もやつを西口公園で張っているのだろう。口ではいろいろといっているが、崇は本気だ。
「ところで蛍光色のパーカーを着た流星は、仕事なにしてんだ?」
職業ですべては分からない。だが、大人の場合そいつは人の在り方の半分以上を事実上決定する。いや、日本では七割以上かもしれない。仕事以外に何もない大人って多いよな。崇が二月の日陰のそよ風のように囁いた。
『職業はユーチューバーだそうだ。俺は、ソイツがどういう仕事なのか知らない。あとはお前に任せる。』
ユーチューバー?それなんだと質問しようとしたところで通話が切れた。まあ、崇にしたらえらく長時間話をしたほうだろう。
王さまからのホットラインはいつだって簡潔にして明瞭。
久秀にひと声かけて街に出た。
夕方から始まる茶屋のコアタイムまでは、しばらく余裕がある。給料は安いが、時間が自由になるのが、店番のいいところ。平日午後のガラガラの映画館にも気軽に行ける。
JR池袋駅の西口ロータリーを通過しておれが感じたのは、なんだかやけに人出が少なくないってこと。消費税アップ以降、週末はともかく平日は副都心池袋も新幹線が通らない地方都市並みに静かなものだ。
リアルなものが動かない時代だ。うちは商店街の一角を占めていて、おれも大江戸学園の町全体の小売業の数字はだいたいわかっている。全力であれこれと仕掛けをして売りだしても、毎年のように数パーセントずつ売り上げが落ち込んでいくのだ。それが何年も続く。まともに働く人の心を削るような現実だよな。デフレ脱却ができれば、おれも本当にいいと思うよ。たとえどんな手を使ってもな。
おれは静かになった街を三分ばかり歩き、西口公園に到着した。