もうパソコンの話なんて時代遅れだし、まっぴらゴメンという奴が多いよな。

ネットにいるのは間抜けなオタクか、アイドル＆声優マニアか、陰謀好きのプチ左翼ばっかり。後はいかれた怪談やデマにころりと騙されるひねた小中学生。どっちにしても近づかない方がいい人種ばかり。おれもこの春のトラブルに関わるまでは、うっかりそう信じ込んでいた。コンピューター革命はほぼ終了系で、仕上がりの形が見えてきた。この先はどうせ大したことないなんてね。

だけど事実は正反対。

ウェブ2.0はこの数年でようやく形になり、いよいよ全メディアを呑み込み始めた。テレビ、映画、音楽、新聞、雑誌、書籍……その他すべて。オールマスコミが有料無料にかかわらず、ネットに食われだしたのだ。

恐竜時代の最後に出現した最初の哺乳類の名は、無料動画投稿サイト。

動画投稿サイトが初めて出現したときは、哀れなネズミのようだった。そいつはほんの十年ばかり前の話だ。テレビや新聞や出版といった巨大な恐竜の足元で、チョロチョロトうろつく泥だらけのネズミ。それが今では、滅びゆく放送や出版全メディアの天敵になろうとしている。おれがコラムを書いているストリートファッション誌も厚さが半分になった。原稿料は当然ずっと据え置きのままだ。もちろん傾向はCD、DVDショップと街の本屋の目を覆いたくなるほどの縮減もついてくる。厳しいよなぁ。

俺がこの春桜の咲く直前のうすら寒い西口公園で出会ったのは、YouTubeでの動画アップを主な業務とするユーチューバー。驚いたことに奴の収入は推定で一部上場企業の社長平均の倍くらいだという。約五千万!無料動画サイトでどうやって新たな富を生み出すのか、おれにはちんぷんかんぷんだった。だってそうだろ、ソイツは砂漠で砂を金に変えるようなものだ。無料から有料を生み出すんだからな。

だが仕事というからには、当然ながらきついこともある。おもしろおかしい動画をアップして、後は一日遊んで暮らすというわけにはいかないのだ。ねずみは進化して次の時代の主役になろうとしているが、ネズミ同士の競争はものすごく激しい。何せ進化の淘汰圧を越えて、さらなる進化を続けなければ、明日は自分が過去の生物に転げ落ちる。

ユーチューバーの話を聞いて、おれは紙に言葉を書く仕事でよかったとつくづく思った。売り上げは減少傾向だが、ここは進化を免れたロストワールドの安らぎとゆったり流れる時間である。



ｰYoutuber∴芸術劇場ｰ