ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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パネルトラックがとまったのは、首都高東池袋口の手前だった。おれと崇とレオンがおりた。八人のS・ウルフと高梨兄弟はそのまま。トラックは長い坂道を登っていく。
おれは銀のパネルを見送っていた。
「ほんとに山の中に捨てるのか?」
愉快そうに崇は笑った。
「いや、目も耳も使えない状態だと危険だからな。夜中にゴルフ場のグリーンにでも捨てて来いといってある。別に殺すつもりはない。悠はそれでよかったんだろう。」
レオンはまだ震えていた。崇のほうを見ようともしない。
「あの脅しだけで、ツインデビルは池袋に戻ってこないかな」
振り向いた崇の温度がすこしだけ低くなっていた。
「あれが、脅しだとなぜわかる?俺は今も本気だし、うちのメンバーに手を出せば、やつらの手首を落とすくらい、すぐにやるさ。俺は約束は守る。とくにS・ウルフと悠、お前にした約束は必ず守る。」
やれは複雑な気持ちで笑った。相手がツインデビルとはいえ、こいつが誰かの手首を落とすところは見たくない。
「おまえがやつらのしたをにぎらせなくてよかったよ。」
崇はメルセデスのドアを開いていった。
「そんな粗末なものに興味ない。悠、よくやった。これで借りがひとつできたな。」
「くだらないもんをいちいち数えるなよ。」
最後まで言いはしなかったが同音異義語で赤の他人でも「たかなし」って名前で悪名を売られていたのは気分がいいものじゃなかったしな。
黒いスモークフィルムを貼ったサイドウインドウが音もなくさがった。崇の右手が現れて、ゆっくりと振られる。
「今度はゆっくり飲もう」
王さまからの奇跡のような誘いだった。
崇のいうとおり、今のところ高梨兄弟は池袋に戻ってきてはいない。やつらにもS・ウルフとその王の恐ろしさは十分に伝わったようだ。
その日、池袋駅でおれはレオンと別れた。レオンはビットゴールドをやめて、ウエブ更新とアフィリエイトに精を出しているようだ。もっとも一発逆転の夢はまだ捨てていないらしい。つぎはアマゾンで、中古カメラとレンズを売るという。都市型のせどりビジネスだ。
堂上常樹は出資法違反で、秋になるころ逮捕された。いつか破たんするのが分かっていても、ついネズミ講を開いてしまう。なんだかバブルに似ていると思うのは、おれだけだろうか。ひとの欲望には果てがなく、遠い未来の破局よりも、目の前に積まれた金の方が魅力的なのだ。
空の雲がだんだんと淡く高くなるころ、ザ・ストリームに顔をだした。店長はなぜか入会金を払っていないおれを名誉会員にしてくれた。六時間半かかって、いつものコラムを書き上げたのだが、案外久秀が嫌いなコワーキングスペースも悪くないと思った。無理もない。その日のネタを追って、東京池袋の草原を右往左往する。
おれこそさすらいのノマドライターそのものなんだから。
ー西池袋ノマドトラップ・完ー
おれは銀のパネルを見送っていた。
「ほんとに山の中に捨てるのか?」
愉快そうに崇は笑った。
「いや、目も耳も使えない状態だと危険だからな。夜中にゴルフ場のグリーンにでも捨てて来いといってある。別に殺すつもりはない。悠はそれでよかったんだろう。」
レオンはまだ震えていた。崇のほうを見ようともしない。
「あの脅しだけで、ツインデビルは池袋に戻ってこないかな」
振り向いた崇の温度がすこしだけ低くなっていた。
「あれが、脅しだとなぜわかる?俺は今も本気だし、うちのメンバーに手を出せば、やつらの手首を落とすくらい、すぐにやるさ。俺は約束は守る。とくにS・ウルフと悠、お前にした約束は必ず守る。」
やれは複雑な気持ちで笑った。相手がツインデビルとはいえ、こいつが誰かの手首を落とすところは見たくない。
「おまえがやつらのしたをにぎらせなくてよかったよ。」
崇はメルセデスのドアを開いていった。
「そんな粗末なものに興味ない。悠、よくやった。これで借りがひとつできたな。」
「くだらないもんをいちいち数えるなよ。」
最後まで言いはしなかったが同音異義語で赤の他人でも「たかなし」って名前で悪名を売られていたのは気分がいいものじゃなかったしな。
黒いスモークフィルムを貼ったサイドウインドウが音もなくさがった。崇の右手が現れて、ゆっくりと振られる。
「今度はゆっくり飲もう」
王さまからの奇跡のような誘いだった。
崇のいうとおり、今のところ高梨兄弟は池袋に戻ってきてはいない。やつらにもS・ウルフとその王の恐ろしさは十分に伝わったようだ。
その日、池袋駅でおれはレオンと別れた。レオンはビットゴールドをやめて、ウエブ更新とアフィリエイトに精を出しているようだ。もっとも一発逆転の夢はまだ捨てていないらしい。つぎはアマゾンで、中古カメラとレンズを売るという。都市型のせどりビジネスだ。
堂上常樹は出資法違反で、秋になるころ逮捕された。いつか破たんするのが分かっていても、ついネズミ講を開いてしまう。なんだかバブルに似ていると思うのは、おれだけだろうか。ひとの欲望には果てがなく、遠い未来の破局よりも、目の前に積まれた金の方が魅力的なのだ。
空の雲がだんだんと淡く高くなるころ、ザ・ストリームに顔をだした。店長はなぜか入会金を払っていないおれを名誉会員にしてくれた。六時間半かかって、いつものコラムを書き上げたのだが、案外久秀が嫌いなコワーキングスペースも悪くないと思った。無理もない。その日のネタを追って、東京池袋の草原を右往左往する。
おれこそさすらいのノマドライターそのものなんだから。
ー西池袋ノマドトラップ・完ー