ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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ホームの自動販売機で冷たい缶コーヒーを買ってきて、やつにわたした。おれもひと口やる。夜も三十度近くある蒸し暑い山手線のホームで飲む苦くて甘いコーヒーを想像してくれ。そいつを二十倍にすると、おれがそのとき飲んだ味になる。
ついに今回の事件を解く糸口が見つかったのだ。缶コーヒー二本分など安いものだった。レオンは涙声だった。
「あせったぼくが悪かった。相手もよく調べないで、ビットゴールドに誘ってしまった。高梨裕康と友康。ビットゴールドには七段階ある。スティール、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、ブラック。自分で投資してもいいし、自分の部下会員から資金を集めてもいい。出資金を増やして、ランクが上がるたびに、配当金が増えるシステムなんだ。」
「あっ……」
声にならない声が出てしまった。そいつは典型的なネズミ講。愚かな話だが、金のないフリーターや非正規ワーカーのあいだで、あれこれと形を変えて今、爆発的に流行している。おれたちの貧しさは底が抜けたのだ。この時代、一獲千金の夢は宝くじかネズミ講しかない。
中身のない恋愛マニュアルの次は、さらに手っ取り早いネズミ講か。堂上常樹の欲望ははてしない。
「やつらはいくら払った?」
「ひとり三百万ずつ。それでプラチナメンバーになった。」
高梨兄弟ならその十分の一の金で、十分に人を殺す動機になるだろう。
「月十万ずつ、ずっと支払われる約束だった。でも、実際の振り込みは三カ月しか続かなかった。」
だいたいの構図はわかった。おれはいってやる。
「相手が悪かったな。やつらはアンタを脅した。金を返せ。慰謝料を払え。それが無理だとわかると、あんたの仕事先を無差別に襲撃した。」
自分のひざを何度も平手でたたいて、レオンが叫んだ。
「あいつら無茶ばかり言うんだ。ツネキさんに会わせろとか、出資した金を倍返ししろとか、最上位のメンバーに格上げしろとか。ホワイトベースも、ザ・ストリームも、ネルフも、ぼくが高梨兄弟と打ち合わせをした場所なんだ。みんなぼくのせいだ。もうしわけない。」
やつの肩に手をおいた。震えと熱が伝わってくる。なにかが引っ掛かる。
「アンタ、今夜泊まるところあるのか」
「いや、このごろずっとマンガ喫茶を転々としてる。これがほんとのノマドだね。」
おれは立ち上がりながら、レオンに声をかけた。マンガ喫茶の寝椅子では、背中と足を曲げたままひと晩じゅう過ごさなければならない。
「疲れただろ。うちこいよ。すぐ近くだから。たいしてきれいじゃないけど、すくなくとも足を伸ばして眠れるぞ。」
うぉーとおかしな雄叫びをあげて、レオンは山手線のホームで男泣きした。
ついに今回の事件を解く糸口が見つかったのだ。缶コーヒー二本分など安いものだった。レオンは涙声だった。
「あせったぼくが悪かった。相手もよく調べないで、ビットゴールドに誘ってしまった。高梨裕康と友康。ビットゴールドには七段階ある。スティール、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、ブラック。自分で投資してもいいし、自分の部下会員から資金を集めてもいい。出資金を増やして、ランクが上がるたびに、配当金が増えるシステムなんだ。」
「あっ……」
声にならない声が出てしまった。そいつは典型的なネズミ講。愚かな話だが、金のないフリーターや非正規ワーカーのあいだで、あれこれと形を変えて今、爆発的に流行している。おれたちの貧しさは底が抜けたのだ。この時代、一獲千金の夢は宝くじかネズミ講しかない。
中身のない恋愛マニュアルの次は、さらに手っ取り早いネズミ講か。堂上常樹の欲望ははてしない。
「やつらはいくら払った?」
「ひとり三百万ずつ。それでプラチナメンバーになった。」
高梨兄弟ならその十分の一の金で、十分に人を殺す動機になるだろう。
「月十万ずつ、ずっと支払われる約束だった。でも、実際の振り込みは三カ月しか続かなかった。」
だいたいの構図はわかった。おれはいってやる。
「相手が悪かったな。やつらはアンタを脅した。金を返せ。慰謝料を払え。それが無理だとわかると、あんたの仕事先を無差別に襲撃した。」
自分のひざを何度も平手でたたいて、レオンが叫んだ。
「あいつら無茶ばかり言うんだ。ツネキさんに会わせろとか、出資した金を倍返ししろとか、最上位のメンバーに格上げしろとか。ホワイトベースも、ザ・ストリームも、ネルフも、ぼくが高梨兄弟と打ち合わせをした場所なんだ。みんなぼくのせいだ。もうしわけない。」
やつの肩に手をおいた。震えと熱が伝わってくる。なにかが引っ掛かる。
「アンタ、今夜泊まるところあるのか」
「いや、このごろずっとマンガ喫茶を転々としてる。これがほんとのノマドだね。」
おれは立ち上がりながら、レオンに声をかけた。マンガ喫茶の寝椅子では、背中と足を曲げたままひと晩じゅう過ごさなければならない。
「疲れただろ。うちこいよ。すぐ近くだから。たいしてきれいじゃないけど、すくなくとも足を伸ばして眠れるぞ。」
うぉーとおかしな雄叫びをあげて、レオンは山手線のホームで男泣きした。