ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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目の前をアルミの電車がとおりすぎていく。ボディに塗られているのは黄緑のライン。JR山手線内まわりのホームが、レオンが指定してきた待ち合わせ場所だった。もう時刻は十時だが、電車にもホームにも人が溢れている。やつはよほど人気のない場所が怖いようだった。
ベンチに座っていると、ぱんぱんに荷物が詰まったトートバックを肩に下げたレオンが、山手線から降りてきた。ひげが伸びている。髪もくしゃくしゃだ。自分の部屋には帰っていないのだろう。ベンチの隣に腰かけたやつから、汗のにおいがした。無理もないよな。この暑さ。
「時間をつくってもらって悪いな。すごくいそがしそうだね。」
ノマドというより着の身着のままで街をさすらうホームレス初心者のようだった。力なく笑って、レオンが言った。キョロキョロ周囲に視線を走らせながら。
「いそがしいというより、心休まるときがないよ。まいったなぁ。」
「そんなに頑張って仕事して、一発逆転を狙ってるんだ。おれ、堂上さんのサイトのぞいてみたよ。あのひと、やっぱりすごいよな」
心にもない嘘がおれは上手。堂上の名を出したとたんに死んでいた目に光がもどってくる。憧れのボーイフレンドか。
「ああ、ほんとだよ。じゃあ、ビットゴールドについても調べたんだ。ぼくは今、あそこのプラチナ会員なんだ。」
「そいつはすごい」
夜の熱気が残るホームをのんびりと発射メロディが流れてくる。おれはクラシックも好きだけど、案外この電子音も嫌いじゃない。そのメロディにかぶさるように、おれのスマホがなりだした。崇からの電話だ。
「ちょっとすまない」
おれはそうことわって、身体を横に向けた。
「今、大切な打ち合わせ中なんだ。短くしてくれ。」
王さまを邪険にあつかうのは気分がいいものだ。
『例のノマドか、わかった。いいか、三軒目が襲撃された。早稲田のネルフだ』
おれは思わず叫んでしまった。気をつけていたので、声は小さかったと思う。
「ネルフ?襲撃?」
使徒かよ。この手の店のオーナーはみなアニメが好きらしく。おれもそうなんだが……。まあ、話題作はひととおり見ておくくらいのオタクレベル。冷風のような王の声が続く。
『予告どおり、放火だ。今度は店の裏手に出されていた資源ごみに火をつけられた。ボヤですんだが、連続なので本気で動きだしたようだ。新しい情報がはいれば連絡する。』
いきなり切れた。無駄なく素早い王さま。
「どこまで話したっけ?」
そういいながら、身体をレオンの方に向けた時、やつはがばりと立ち上がった。
「ネルフだって……もういいかげんにしてくれ。頭おかしいのか、アイツ。」
握りしめた拳が震えていた。おれは座ったままやつの顔を見上げた。涙ぐんでいる。声を抑えて静かに言った。
「今夜、早稲田のコワーキングスペース、ネルフが放火された。ダチが知らせてくれた。おれが書いてるコラムではストリートの犯罪もいいネタになるんだ。あんた何か知ってるよな。」
おれはホームベンチを立ち、やつの目を正面から覗き込んだ。帰宅を急ぐサラリーマンが透明人間のように通りすぎていく。おれは尋問する刑事のような冷たい目をしていないだろうか。気にかけてはいられない。
「いいか、ひとことだけいう。そいつを知っていたら、うなずいてくれ。」
やつは何とか涙をこぼさないように、あごの先だけ沈めた。おれはそっと悪魔の言葉を投げてやる。
「高梨兄弟、別名ツインデビル。」
レオンは両手で頭を抱えた。ビンゴ!
「なんなんだよ、もうわけわかんないよ。悠さん、助けてくれ!」
全身が震えている。ひとりでツインデビルの恐怖に耐えていたのだ。おれはレオンの肩に手をおいて、ベンチに座らせた。
ベンチに座っていると、ぱんぱんに荷物が詰まったトートバックを肩に下げたレオンが、山手線から降りてきた。ひげが伸びている。髪もくしゃくしゃだ。自分の部屋には帰っていないのだろう。ベンチの隣に腰かけたやつから、汗のにおいがした。無理もないよな。この暑さ。
「時間をつくってもらって悪いな。すごくいそがしそうだね。」
ノマドというより着の身着のままで街をさすらうホームレス初心者のようだった。力なく笑って、レオンが言った。キョロキョロ周囲に視線を走らせながら。
「いそがしいというより、心休まるときがないよ。まいったなぁ。」
「そんなに頑張って仕事して、一発逆転を狙ってるんだ。おれ、堂上さんのサイトのぞいてみたよ。あのひと、やっぱりすごいよな」
心にもない嘘がおれは上手。堂上の名を出したとたんに死んでいた目に光がもどってくる。憧れのボーイフレンドか。
「ああ、ほんとだよ。じゃあ、ビットゴールドについても調べたんだ。ぼくは今、あそこのプラチナ会員なんだ。」
「そいつはすごい」
夜の熱気が残るホームをのんびりと発射メロディが流れてくる。おれはクラシックも好きだけど、案外この電子音も嫌いじゃない。そのメロディにかぶさるように、おれのスマホがなりだした。崇からの電話だ。
「ちょっとすまない」
おれはそうことわって、身体を横に向けた。
「今、大切な打ち合わせ中なんだ。短くしてくれ。」
王さまを邪険にあつかうのは気分がいいものだ。
『例のノマドか、わかった。いいか、三軒目が襲撃された。早稲田のネルフだ』
おれは思わず叫んでしまった。気をつけていたので、声は小さかったと思う。
「ネルフ?襲撃?」
使徒かよ。この手の店のオーナーはみなアニメが好きらしく。おれもそうなんだが……。まあ、話題作はひととおり見ておくくらいのオタクレベル。冷風のような王の声が続く。
『予告どおり、放火だ。今度は店の裏手に出されていた資源ごみに火をつけられた。ボヤですんだが、連続なので本気で動きだしたようだ。新しい情報がはいれば連絡する。』
いきなり切れた。無駄なく素早い王さま。
「どこまで話したっけ?」
そういいながら、身体をレオンの方に向けた時、やつはがばりと立ち上がった。
「ネルフだって……もういいかげんにしてくれ。頭おかしいのか、アイツ。」
握りしめた拳が震えていた。おれは座ったままやつの顔を見上げた。涙ぐんでいる。声を抑えて静かに言った。
「今夜、早稲田のコワーキングスペース、ネルフが放火された。ダチが知らせてくれた。おれが書いてるコラムではストリートの犯罪もいいネタになるんだ。あんた何か知ってるよな。」
おれはホームベンチを立ち、やつの目を正面から覗き込んだ。帰宅を急ぐサラリーマンが透明人間のように通りすぎていく。おれは尋問する刑事のような冷たい目をしていないだろうか。気にかけてはいられない。
「いいか、ひとことだけいう。そいつを知っていたら、うなずいてくれ。」
やつは何とか涙をこぼさないように、あごの先だけ沈めた。おれはそっと悪魔の言葉を投げてやる。
「高梨兄弟、別名ツインデビル。」
レオンは両手で頭を抱えた。ビンゴ!
「なんなんだよ、もうわけわかんないよ。悠さん、助けてくれ!」
全身が震えている。ひとりでツインデビルの恐怖に耐えていたのだ。おれはレオンの肩に手をおいて、ベンチに座らせた。