ー特別編ー西池袋ノマドトラップ
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おれは店を飛び出した。
久秀がおれの背中に向かって、巡航ミサイルに似た罵声を何発か撃ってきたけれど、気になんかしない。おれのナイーブな心は安全な地下深くに埋めてあるからな。
鉱物のように青い夏空のした、おれが速足で目指したのは「ザ・ストリーム」だった。池袋西口のおしゃれなコワーキング・スペースだ。現場はすぐに踏んでおかなくちゃいけない。ビルの一階正面のガラスは完全に砕けていた。幅は四メートル、高さは二メートル五十くらいだろうか。四隅に割れた残骸が残るだけ。カフェのようなコミュニケーションスペースのほうだ。まだ黄色い規制線が張られているが、破片はもう片付けてあった。
メッセージはガラスの自動ドアに赤いスプレーで残されていた。
【次は火だ!おまえ、わかってんな?】
いちおうスマホで現場写真を撮っておく。休業中のようだが、ドアをノックして大声を出した。
「誰かいないか、誰か」
作業スペースとの間仕切り壁から、恐るおそる店長が顔をのぞかせた。いつでも警察に通報できるようにだろう。スマホを耳に当てている。
「なんだ、小鳥遊さんじゃないですか。驚かせないでくださいよ」
ガラスの壁が割れているので、いくらでも中には入れるのだが、おれは店長が自動ドアの鍵を開けてくれるまで待った。立ち入り禁止のテープをくぐり、割れたガラスを越えるのは文明的じゃないからな。
店長は大テーブルの角におれを案内して、エスプレッソをいれてくれた。
「昨日、取材させてもらったばかりなのに、びっくりしたよ。誰か恨まれてる相手とか心当たりはないかな」
襲撃をうけると、一日で人の顔は変わるようだ。店長の頬はナイフで削いだようにこけている。
「それもコラムに書くの?」
「いや、そんなんじゃない。ただの好奇心だよ。昨日の帰りにおれはホワイトベースにもいってみたんだ。誰かに切られた電線には金属のコイルみたいなやつが巻いてあった。あそこの店だけなら、ただの悪質ないたずらかもしれない。でも、短期間に目白と池袋で連続して、コワーキング・スペースが襲撃された。こうなると、何か裏があると誰だって思うよな。」
おしゃれな店長は憮然とした顔をしている。あごひげを神経質につまんでいた。
「それは警察の人にも聞かされたけど、全然心当たりがないんだ。訳が分からない。うちの店の売上なんて、大したことないのに。」
個人営業なのだろう。泣きが入るのは無理はない。
「誰にも脅されたりしてないんだ。」
「ないよ。せめて、ガラスを割る前に相談してほしかったね。保険に入っておいたのに。」
「じゃあ、メッセージのお前ってのも……」
「僕のことじゃないと思う。仮に僕だとしたら、ぜんぜん意味がわからない。」
久秀がおれの背中に向かって、巡航ミサイルに似た罵声を何発か撃ってきたけれど、気になんかしない。おれのナイーブな心は安全な地下深くに埋めてあるからな。
鉱物のように青い夏空のした、おれが速足で目指したのは「ザ・ストリーム」だった。池袋西口のおしゃれなコワーキング・スペースだ。現場はすぐに踏んでおかなくちゃいけない。ビルの一階正面のガラスは完全に砕けていた。幅は四メートル、高さは二メートル五十くらいだろうか。四隅に割れた残骸が残るだけ。カフェのようなコミュニケーションスペースのほうだ。まだ黄色い規制線が張られているが、破片はもう片付けてあった。
メッセージはガラスの自動ドアに赤いスプレーで残されていた。
【次は火だ!おまえ、わかってんな?】
いちおうスマホで現場写真を撮っておく。休業中のようだが、ドアをノックして大声を出した。
「誰かいないか、誰か」
作業スペースとの間仕切り壁から、恐るおそる店長が顔をのぞかせた。いつでも警察に通報できるようにだろう。スマホを耳に当てている。
「なんだ、小鳥遊さんじゃないですか。驚かせないでくださいよ」
ガラスの壁が割れているので、いくらでも中には入れるのだが、おれは店長が自動ドアの鍵を開けてくれるまで待った。立ち入り禁止のテープをくぐり、割れたガラスを越えるのは文明的じゃないからな。
店長は大テーブルの角におれを案内して、エスプレッソをいれてくれた。
「昨日、取材させてもらったばかりなのに、びっくりしたよ。誰か恨まれてる相手とか心当たりはないかな」
襲撃をうけると、一日で人の顔は変わるようだ。店長の頬はナイフで削いだようにこけている。
「それもコラムに書くの?」
「いや、そんなんじゃない。ただの好奇心だよ。昨日の帰りにおれはホワイトベースにもいってみたんだ。誰かに切られた電線には金属のコイルみたいなやつが巻いてあった。あそこの店だけなら、ただの悪質ないたずらかもしれない。でも、短期間に目白と池袋で連続して、コワーキング・スペースが襲撃された。こうなると、何か裏があると誰だって思うよな。」
おしゃれな店長は憮然とした顔をしている。あごひげを神経質につまんでいた。
「それは警察の人にも聞かされたけど、全然心当たりがないんだ。訳が分からない。うちの店の売上なんて、大したことないのに。」
個人営業なのだろう。泣きが入るのは無理はない。
「誰にも脅されたりしてないんだ。」
「ないよ。せめて、ガラスを割る前に相談してほしかったね。保険に入っておいたのに。」
「じゃあ、メッセージのお前ってのも……」
「僕のことじゃないと思う。仮に僕だとしたら、ぜんぜん意味がわからない。」