ー特別編ー黄色のCurrency
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「ここは基本的にコンピューターが用意してあるだけです。登録メンバーは誰でも好きなときにきて好きなだけ働けばいいようになってます。十六人のうち、正規のNPO職員は四人だけで、残りは俺と同じ。みんなボランティアです。」
おれは十人ほど若い男女が働くブースに視線を走らせた。
ヘッドホンをしたり、椅子のうえであぐらをかいたりしながら、誰もが自分のスタイルでコンピュータに向かっている。
おれはブースの中央におかれた機械を見た。
「そいつは最新型のマルチプリンターだ。市販品では最高位のカラーレーザー印刷機だ。」
アサノがヒョッコリと出てきた。どうやら後をついてきていたようだ。
「これでep札も刷ってるんだ。」
アサノはなんでもなさそうにうなずいた。
「ああ、それがどうかしたのか」
俺はじっとデザイナーの目を見つめながらいった。
「つい最近、ep札の用紙が変わったはずだ。このNPOではいったいどれくらいのやつがそれを知ってるんだろうか」
アサノの目には愉快そうな表情があった。偽札づくりには見えなかった。
すごく余裕が感じられる。
「理事の何人かとデジタルデザイン部の全員、そうだな、あとはオコノギ代表くらいじゃないか」
オコノギの名前をあげるとき、皮肉そうに口の端をつりあげた。
俺が黙ってるとやつはいう。
「epの偽札の噂なら、誰だって知ってるさ。このセンターじゃ口にしないけどな、でも考えてごらん。ここでマウスをうごかして、2・3回クリックするだけで、五百円札がバンバン刷れるんだ。おいしい話しには違いない。」
それから手をあげて周囲を示す。
「このブースには基本的に誰でも入ることができる。今は十六人だが、辞めていったやつはその何倍もいるし、ここに登録している人間の友人ならみんな顔パスだ。」
俺はプリンターから目をあげて、将也を見てから、カリフォルニアの新興IT企業のオフィスを見つめた。
楽園にも不満はあるようだ。
「辞めていったやつがそんなにいるんだ。」
「ああ。最初は立派な目的に酔って、安い給料でも我慢できる。だけど、できるやつほどしばらくすると転職を考えるようになるのさ。」
「どうして?」
将也が答えてくれた。
「格安な給料と人間関係。組織なんてそんなものでしょ。理事の誰かの覚えがよければ、まるで無能な職員にだって役がつきます。金で結果がはっきりしない分、上のほうは仲良しクラブになるんですよ。」
「なるほどね。」
アサノが交代するように続ける。
「この部署のチーフは理事の奥さんなんだぜ。メール打つときだっていまだに人差し指二本だけ。クォークやフォトショップが、どこかのラボ屋の名前だと思ってるんだけどな」
アサノにも不満はかなりたまっているようだった。
組織の欠点は内部からしか見えないのかも知れない。
俺は怒れるデザイナーにいった。
「それでアンタも辞めようと思ってるのか?」
アサノは首を横に振る。
「そう簡単だといいんだが、この仕事にも結構やりがいがある。」
サブチーフと呼ばれて、アサノはいってしまった。
「アサノは腕とセンスはあるけど、上司とももめてるだろ?」
「よく解りますね。」
「ま、何となくだけどな。」
ここは日本なのだ。会社がNPOと名前を変えたくらいで組織の問題がすべて解決するはずなどなかった。
俺がブースの遠くを見てると向こうに座る太った男と目があったがすぐに背けられた。
おれは十人ほど若い男女が働くブースに視線を走らせた。
ヘッドホンをしたり、椅子のうえであぐらをかいたりしながら、誰もが自分のスタイルでコンピュータに向かっている。
おれはブースの中央におかれた機械を見た。
「そいつは最新型のマルチプリンターだ。市販品では最高位のカラーレーザー印刷機だ。」
アサノがヒョッコリと出てきた。どうやら後をついてきていたようだ。
「これでep札も刷ってるんだ。」
アサノはなんでもなさそうにうなずいた。
「ああ、それがどうかしたのか」
俺はじっとデザイナーの目を見つめながらいった。
「つい最近、ep札の用紙が変わったはずだ。このNPOではいったいどれくらいのやつがそれを知ってるんだろうか」
アサノの目には愉快そうな表情があった。偽札づくりには見えなかった。
すごく余裕が感じられる。
「理事の何人かとデジタルデザイン部の全員、そうだな、あとはオコノギ代表くらいじゃないか」
オコノギの名前をあげるとき、皮肉そうに口の端をつりあげた。
俺が黙ってるとやつはいう。
「epの偽札の噂なら、誰だって知ってるさ。このセンターじゃ口にしないけどな、でも考えてごらん。ここでマウスをうごかして、2・3回クリックするだけで、五百円札がバンバン刷れるんだ。おいしい話しには違いない。」
それから手をあげて周囲を示す。
「このブースには基本的に誰でも入ることができる。今は十六人だが、辞めていったやつはその何倍もいるし、ここに登録している人間の友人ならみんな顔パスだ。」
俺はプリンターから目をあげて、将也を見てから、カリフォルニアの新興IT企業のオフィスを見つめた。
楽園にも不満はあるようだ。
「辞めていったやつがそんなにいるんだ。」
「ああ。最初は立派な目的に酔って、安い給料でも我慢できる。だけど、できるやつほどしばらくすると転職を考えるようになるのさ。」
「どうして?」
将也が答えてくれた。
「格安な給料と人間関係。組織なんてそんなものでしょ。理事の誰かの覚えがよければ、まるで無能な職員にだって役がつきます。金で結果がはっきりしない分、上のほうは仲良しクラブになるんですよ。」
「なるほどね。」
アサノが交代するように続ける。
「この部署のチーフは理事の奥さんなんだぜ。メール打つときだっていまだに人差し指二本だけ。クォークやフォトショップが、どこかのラボ屋の名前だと思ってるんだけどな」
アサノにも不満はかなりたまっているようだった。
組織の欠点は内部からしか見えないのかも知れない。
俺は怒れるデザイナーにいった。
「それでアンタも辞めようと思ってるのか?」
アサノは首を横に振る。
「そう簡単だといいんだが、この仕事にも結構やりがいがある。」
サブチーフと呼ばれて、アサノはいってしまった。
「アサノは腕とセンスはあるけど、上司とももめてるだろ?」
「よく解りますね。」
「ま、何となくだけどな。」
ここは日本なのだ。会社がNPOと名前を変えたくらいで組織の問題がすべて解決するはずなどなかった。
俺がブースの遠くを見てると向こうに座る太った男と目があったがすぐに背けられた。